天使族と悪魔族の間に生まれた忌み子は、人族として冒険者となる【世界で唯一の聖魔族、二柱の神へ叛逆を決意す。】

羽流

第〇話 目覚めと喪失のプレリュード

 意識が覚醒する。全身を包み込む柔らかな感触とほのかな温もりを感じた。しばらくして意識が明瞭めいりょうになってくると、若い男女の罵声が飛び交う様子が彼の耳に入ってくる。夢だろうか。


「なぜ悪魔などとえにしを結んだ!一体どういうつもりだ!」


 瑞々みずみずしいながらも威厳のある声が辺りに響いた。誰かを弾劾だんがいしているのだろうか。と、彼は思った。


熾天使セラフィム様、どうかお許しを!私達はただ、愛し合っていただけなのです!」


 女性の必死な声が響く。自然と、その声の主が自分の母親であることが理解出来た。


「ならん!穢れた者と結ばれ、あまつさえ子を産むなど……なんという……なんということを……!」


 何が起きているのだろうか。と、今更ながら彼は思った。夢にしてはリアルすぎやしないだろうか。それに、記憶している母親の声と女性の声は全く違った。そもそもなぜ、彼女が俺の母親だと思ったのだろうか。


 彼が思考を巡らせている中、話が不穏な方向へと向かって行く。


「……シェラよ。お主は我々のために、これまで数多くの献身を重ねてきた。だから機会をやろう。」


 そう言って一拍置くと、男性の声は続ける。


「その忌み子の命ををお主自らの手で断ち、金輪際こんりんざい天界より出ぬと約束するのならば、此度の罪には目を瞑ろう。」


 ……え?


 暫時の間の後、彼の視界に女性が映る。さらさらとした白髪はくはつと、薄らと光を帯びる金の瞳を持つ、美しい女性。しかし、その顔は哀しみに溢れていた。


「……ごめんなさい、アーナン」


 そして、彼女は彼に手をかざし……


「……せめてあなただけは」


 同時に、周囲から光が溢れる。


「私のなさけを踏みにじるか!」


 憤った男性の声とともに、目の前の女性の胸に風穴があく。


 ゴフッ……


 その口と傷口から、赤黒い液体が溢れる。せ返るような鉄臭さの中、彼女の最後の言葉とともに、彼は地上へと送られた。


「お願い……生きて、アー、ナン……」


 消える視界の中、最後の刹那に彼が見たのは、男性によって振り下ろされた剣に、首を飛ばされた母親の姿であった。


 


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天使族と悪魔族の間に生まれた忌み子は、人族として冒険者となる【世界で唯一の聖魔族、二柱の神へ叛逆を決意す。】 羽流 @Toki0550

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