世界
大昔、小国の島国にあった「落語」という話のようだが、オチもサゲもなにもない。
残ったのは酔っ払いの老人だけである。
僕は、しばらく愚痴をこぼす自称神様に付き合っていたが、やがて彼が寝落ちしてしまったので、放って置いて勘定を済ませ店を出た。
大将曰く、いつものことだから放って置いて構わない、とのこと。閉店の時間には突然起き上がり、お金を払って帰って行くそうだ。
もっとも、今日は僕が払っておいた。奢りといわれたが、あてにはならないし、奉納ということにでもすれば、御利益のひとつでもあるかもしれない。
僕はわりとしっかりとした足取りで、帰路に着く。
空を見上げればいつもどおり、夜空を覆う透明な殻の向こうに球形の満月が浮かんでいて、少し傾きかけている。
なるほど。
夜道を歩きながらひとり思う。
そういえば、東の果てにある、唯一、殻の向こう側にある小島から打ち上げられた人工衛星が軌道に乗ったとニュースになっていた。
僕は満月から視線を移し、人工衛星が肉眼で見れないか探そうとして諦めた。僕の悪い視力で見えるわけはないか。
空から視線を移す。
世界の果てまで続く大地を思い、家までの距離を誤魔化してみる。
あまり得たくない知己を得たのかもしれないが、酒の肴としては面白い話だった。
しかし、と考えてみる。
いくら力の大部分を失ったとはいえ、やっぱりこの星が助かったのは、神様の起こした奇跡なのではないのだろうか。たまたま、新しくできた星の位置が、元の星の位置よりズレて当らなくなっただけだとしても。生半可な工事ではなかったはずだから、見返りがあったのか?
あれで案外、ご利益のある神様なのかもしれない。
本当に神様なのならば、だが。
僕はため息をつく。
何だったんだろうね?
終電は終わり、タクシーはいない。明日はお休みだ。週末でよかった。
酔っ払いの神様、宇宙規模の危機を語る 春成 源貴 @Yotarou2019
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