視界 1人台本 不問1

サイ

第1話


なぁアンタ、空って見るか?


大人になると、意外と空って見ねぇもんなんだよ。


小さい頃は誰もが雲をものに例えたりして遊んだっていうのにさ。


今日の雲はどんな形だった?


千切れていたか?大きかったか?


夜だって、月が明るけりゃ雲は見えるもんなんだぜ。




大人ってのは、意味がないと判断したものはさっさとゴミ箱に捨てちまうからいけねぇ。


たしかに、雲の形を見て何かを得られることは少ないだろうよ。


でもそれくらい視界を広く持っておくことは大切なんだよ。


意味がないものを切り捨てた結果、意味があるものだけを注視するようになった大人は、見えていたはずのものも見えなくなっちまうんだよ。




箱メガネってあるだろ?


ほら、船に乗ったまま水中を覗くための道具。


あれ使って船に乗ったまま漁をする人もいるらしいが……。


あれってどうなんだろうな?メガホンのように裾が広がっちゃいるが、それでも視界は狭いと思うんだが。


メガネの視界の外に大きなウニが眠っている可能性だって、ありそうだよな?




見えねぇからって諦めるのは早計だよ、見えねぇなら目をこらさなくっちゃ。


見落とした、見ようとせずに捨ててしまった世界に、実は面白いもんがあるかもしれねぇんだよ。


あ?まるで自販機の下覗いて歩き回ってるやつみたいだ?


失敬な、おつりが出てくるところしか見てねぇよ。




ところでアンタ、さっきぼーっとしながら歩いていたが……、


まわりのやつらの話に混ざらなくてよかったのか?


あんなにたくさんに囲まれてたのに、よくスルーできるよな。


なんの話だ、って……気づいてなかったのか?




アンタが毎日うつろな顔でここを通りがかるとき、


いつもまわりで魑魅魍魎がくっちゃべってたぜ?


視界に入ってなかったのかねぇ。

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視界 1人台本 不問1 サイ @tailed-tit

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