16.

正直何もしたくない。

もう疲れ切ってしまったのだろう。

担当弁護士の声が法廷中に響き渡っている。俺がいかに無実であるのか、熱のこもった声で、理路整然と語ってくれている。しかし、残念ながら、どれも俺には全く持って関係のないことにしか思えない。

もう俺には何も残っていない。

このままムショ送りにされても死ぬし、奇跡的にそれを免れたとしても、社会的に俺はもうとっくに死んでいる。友達も家族もおらず、完全に孤独だ。ならいっそのこと収監された方がいいのではないかと思う。どの道死ぬんだから最後くらい楽な道に進みたい。このまま何も考えずに正直に話せば俺はムショ送りにされる。ならそれでいい。わざわざ無罪の理由を作りあげ、それを法廷で幾度も戦わせるとなると多大なる時間とエネルギーを費やさねばならなくなる。そんな気力もう俺には残っていない。京香と柏田との一件で俺は完全に抜け殻状態になっている。もう頭も体も使い物にならない。心もあれっきり動かなくなってしまった。動かそうとも思わない。

俺は自分が悪いことをしたとは思っていない。でも確かに柏田を殺したし望月さんも結果的に殺めてしまった。その事実から目を背けようとも思わない。殺した理由、殺めてしまった理由はシンプルに殺意と大きすぎる愛情だ。柏田にはこれまでのヒドイ扱いに対する完全なる復讐を遂げたまでだ。そして京香には、胸の奥底にずっとしまいこんでいた思いを一気に伝えたんだ。どちらも悪いことではない。特に柏田に対して行ったことは手段、程度ともに完全に正当だと思う。京香に対しても、手段、程度ともに正当だったと思う。ただ、もしかすると俺側に何らかの配慮不足があったのではないかと思うところが少しだけある。もし本当に完全に正当だったのであれば、彼女が今ここにいないなんてことは絶対にありえないからだ。もし完全に正当だったのであれば、今俺の横にいてくれているはずだからだ。そうじゃないということは、きっと俺の側で何らかの配慮不足があったのだろう。そう考えていると、少し心に動きがあった。どうしてこうなってしまったんだろう。なんで俺と京香は一緒になれなかったんだろう。自分のしたことに対する後悔の念が湧き上がってくる。俺と京香が普通に話しながら自然と関係性を深めていく道はなかったのだろうか。俺自身もそれを望んでいたのではないか。確かにそうだったと思う。だが、結局はこのような思いは夢物語に過ぎないのだ。俺は話しかけていた。毎度心臓がはち切れそうになりながら話しかけていたではないか。それが京香によって無下に扱われていたのだ。いくら頑張って、知恵を振り絞って話しかけても、彼女は全く心を聞いてくれなかったのだ。そんな中で、柏田からのクソみたいな扱いと相まってマゾレディ通いが始まったのではないか。結局は、やはり必然だったということだ。好みの女に全く相手にされず、話を通して好みの女と繋がる道を完全に断たれた結果、セックス、さらにはスカトロという過激な方法でしか好みの女と繋がっている実感を得られなくなってしまったのだ。最後、京香ともあのスカトロプレイに持ち込んだのは必然としか言いようがない。それまでの強引で過激なプレイがどれもその効果を発揮していなかったのだから。あのスカトロプレイになってやっと京香が抵抗を止め、繋がりを感じられたのだから。でもそしたら殺めてしまった。おそらく俺が彼女と繋がりを感じていた時に彼女は死んでしまっていたのだ。なぜ死んでしまったのか。俺がやり過ぎたからなのか。それもあるのかもしれない。でもやはりそれだけではないと思う。きっと京香は嫌だったのだ。俺とのセックスが。俺と繋がることが。そんなに嫌だったのか。悲しみが込み上げてくる。そこまでして彼女は、俺と繋がりたくなかったのか。死んでまでして、俺との繋がりを避けたかったのか。俺は好みの女と一緒になる資格すらない人間だと言うことなのだろうか。そんな人生、生きていても仕方がない。途端にムショ暮らしまでもが嫌になってきた。一生好みの女と繋がれないんだったら、生きていることに一体何の意味があるんだろう。

何の意味もないだろう。

そんな人生なら死んだ方がましだ。今すぐにでも終わらせた方がいい。

「死刑にしてください」

弁護士の話を遮ると、法廷内の注目が一気に俺に集まった。

そして法廷内が一気にざわめき始めた。

弁護士を始め、裁判長も驚きの表情で俺を見ている。

俺はすっと立ち上がり、しっかりと裁判長の目を見て続けた。

「お願いします。今すぐにでも死刑執行してください」

恐怖感と共に、とてつもない解放感が体中に広がった。

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渇望 Take_Mikuru @Take_Mikuru

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