15.
心が完全に空っぽになってしまった。
荒田君と初めて体を重ねた時は、それはもうとてつもない希望を感じた。彼はまさに私が探し求めていた若い男だったのだ。体つきや顔はもちろん、その醸し出す雰囲気、特に彼のおとなしく常に感情を抑圧しているところがこの上なく私好みだった。容姿は最高だが、気の強い、何でもかんでも思ったことを言ってくるクソ生意気野郎どもにうんざりしていた私にとって、まさに彼は救世主だったのだ。だから彼の逮捕を受けて私は完全に途方に暮れてしまった。最高級のパートナーを失ってしまったのだから。パートナーなくして私が日常生活を営むなど皆無だ。すぐさま新たなパートナー探しを行なった。社内は物色済みだったため、ゲイバー、マッチングアプリ、挙げ句の果てにはゲイ風俗にまで手を伸ばした。だがどれもダメだった。どれ程のお金と時間を積み上げても、荒田芳美に匹敵するパートナーなど見つからなかったのだ。そこからは急転直下、仕事も家族との偽りの関係も全て瞬く間に破綻していった。まず仕事中にパートナー探しをせずにはいられなくなり、全く集中出来なくなった。当然その結果仕事での失敗が続き、挙句の果てにはパートナー探しのためにゲイ風俗サイトを見ていたこともバレてしまった。幸い首にはされず、降格に止まったものの、これまでの部下と同じ立場、人によっては下の立場で働くことに耐えられずに自ら退職した。すると、ここぞとばかりに妻に離婚届を突きつけられた。インクの乾き具合から判断するに、とうの昔から準備していたようだった。断る理由も浮かばず印鑑を押し、当然のように親権も奪われた。正直、娘のことなど考えている余裕すらなかった。そうして私は今マンションの屋上にいる。私が生きる上で糧にしてきたもの全てを失い、自然と屋上の淵の上に立っていた。何処で道を間違えたんだろう?そんなことを考える気力すらない。ただ終わらせたい。畑仲源治というクソ人間を終わらせたい。荒田君にも申し訳ないことをしたのかもしれない。妻にも、娘にも、これまでの全てのパートナーにも、さらには人事部の皆にも。
でも、
もう大丈夫。
私は、、、、、、、、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます