恋なんて

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第1話

 時田佐奈は中学2年生の14歳、彼女には何でも心置きなく話せる親友がいる。名前は沢崎賢人、そう、佐奈と同じ学校の同じ教室のクラスメイト。

 そもそも佐奈の母の圭子が、公園デビューしたとき賢人の母の仁美がいて、それ以来のママ友となっていた。それ以来、佐奈と賢人はいつも一緒、そしていつも遊んできた。それは幼稚園のときも、小学校のときも、そして中学生になった今でも、仲のいい二人。あまりにも仲がいいので、端から見ると恋人と間違われがちだが、

「ただの友だちだから」

と、二人は声を合わせてきっぱり答える。よほど聞かれてきたのか、ウンザリ感が伝わってくる。


 佐奈の放課後は、専ら親友の莉子とファミレスでのお勉強。

「もう希望高校決めた?」

 時期が時期だけに、やはり話題は自然と受験のことになる。

「莉子はいいよね、成績は学年でもトップクラスだから、どこでも行けるし」

 佐奈にとって、莉子は羨望の的だ。

「止めてよ、そんなに良くもないよ。ねえ人って何で人を好きななるのかなあ?」

 急に何を話し出すのか。

「ね大丈夫?いきなり変なこと聞かないでよ」

 唐突な話に、頭が混乱してしまう。

「あんたには彼氏いるから心配ないけど。私なんて空き家になってもう半年」

 佐奈には、同じバレー部の先輩の明神慎之輔とうい彼氏がいる。

「考えてみれば不思議ね?そう、人はなぜ人を好きになっちゃうのかなあ?」 

莉子からの不意な問い掛けに、佐奈はも真剣に悩んでしまう。


 佐奈は、ファミレスの帰りに立ち寄ったコンビニで、偶然に賢人と出くわした。

「ねえ何してんの?どうせエロい本でも見てたんでしょ」

 図星だったのか、佐奈に気づいた賢人は、さも慌てた様子。

「お前こそ何してんだ?どうせスイーツだろ?そのうちブクブク来るぞ」

 とっさにそう返すのが精一杯だった。

「あっそれってセクハラといいますのよ、フフフ」

 こんな冗談を言い合えるのも、そこは幼ななじみのよしみ。


 そこからは、帰る方向が同じでのため、一緒に帰ることにした。

「ねえ賢人、人ってどうして人を好きになるの?」

 またさきほどのハテナが、よみがえってきた。佐奈はよっぽど気にしてるみたい。

「どうした?熱でもあんのか?そんなの好きに理由なんかあるかよ」

 賢人の答えはストレートで、突っ込む余地がない。

「で、賢人って、今好きな人っている?」

 いきなり直球でぶち込まれた。心当たりもないのに、賢人の心臓はまさにバクバク。

「じゃあ、佐奈が好きということにしとこかな?」

 冗談ともとれないこの一言が、後の二人の関係に大きな変化を与えようとは、そのときは想像もつかなかった。


楽しそうに会話し歩いてると、前方から同じクラスの若島有紀が歩いてきた。

「あっ有紀。借りてたノートのことだけど。あっ佐奈ごめんな、有紀と話したいことあるんで。また後で」

 賢人は佐奈に別れを告げ、有紀と一緒に去っていってしまった。

 取り残された佐奈は、心にポカンと穴が空いたような気分だ。

 

 別に私の彼氏じゃないし


 自分自身に言い聞かせることで、なぜか納得させようとした。


「ねえあんまりじゃない。私と賢人が話してるのに、割り込んでくるなんて」

 佐奈は、莉子に今のモヤモヤ感をぶちまける。

「えっあんたたち付き合ってたの?じゃないよね。だったらどうしようと沢崎君の勝手じゃない?」

 それくら佐奈も分かってる。でも、とにかく誰かに聞いてもらいたかっただけだった。

「ほんとうは好きなんじゃない?沢崎君のこと」

「・・・だから前から言ってるじゃない・・・ただの幼なじみだって」

 そう答えながらも、佐奈自身には迷いが出始めてきてたのは事実だった。

「あんたには、明神先輩がいるんでしょ?好きなんでしょ?」

 痛いところを突かれた。それでも強がってみせる。

「いるっちゃいるけど。どうも最近・・・・」

 やはり迷ってる。

「じゃあ次に私から話していい?実は好きな人出来たんだ」

 急なカミングアウトに、佐奈も身構えてしまう。

「て誰?ねえねえ教えて?」

 佐奈は興味津々。

「言ってもいいけど、絶対怒らないでよ。・・・じゃあ言うね・・・それは沢崎君」

 もったいぶって出てきた名前を聞き、佐奈も動揺を隠せない。しかし、ここはあえて冷静を装う。

「あっそうなんだ?賢人は知ってるの?」

 怒られると思ってただけに、莉子も拍子抜け。

「知ってる何も、沢崎君から告白されたんだから」

 これは初耳。佐奈は、そんな賢人の気持ちをまったく知らなかった。


 何で私に言ってくれなかったの・・・あっそっか、どうでもいっか


 その場は冷静さを保った佐奈だったが、どうしても釈然とせず、賢人を問い詰めたくなっている。  


  帰宅後、佐奈はさっそく賢人に電話した。その口調は想像通り。

「あんた莉子に告白したんだって?何考えてんの?」

 賢人は、まるで電話が掛かってくるのを予想してたのかように、軽くかわしてくる。

「へ~情報早いねえ。で、何で告っちゃダメなの?そもそもお前なんかに関係ないし」

 言ってることは至極当然。

「まあ、そうだけど」

 さらに賢人はたたみかけてくる。

「それとも俺のことが好きとか?」

「んな訳ないじゃない。私たち友だちよ。彼氏とは考えられない」

佐奈がドギマギしてるのが、電話越しだけどよく伝わってくる。

「俺もそう。これで分かっただろ?じゃあ切るぞ」

 佐奈は、どうしても〝俺もそう〟が引っかかってしまった。


 だから私も・・・えっ本当に私もそうなの?


 佐奈は、深い迷いの渦の中に飲み込まれていく。 


 数日後の日曜日、佐奈は、彼氏の慎之輔と地元の遊園地にいた。久しぶりのデートに、佐奈は前日から興奮しっぱなし。それは早く会いたい気持ちが強く、待ち合わせ時間より、1時間前に着いていたほどだった。


絶叫ジェットコースター、フラワーメリーゴーランド、そして次はメインのお化け屋敷。

 

 きっと先輩が私を守ってくれるんだろうなあ


 ところが出口から出てきたカップルたちの、べそをかいてるの様子を見た慎之輔は、突然泣きついてきた。

「お化け屋敷入るの止める。どうせ偽物のお化けんて、おもしろくないし」

 そういうと、急きょ予定を変えてしまった。

 

 あ~ああ。抱きつくチャンスが。でも絶対にまたくるから


 佐奈は次に無念の気持ちを隠しながら、慎之輔の後を追った。

「やっぱ、ボートにしようぜ」

 ボートと聞いて、佐奈は一瞬ためらった。なぜなら、ここで恋人同士でボートに乗ると、別れるというジンクスがあったからだ。

「えっそれってやばくない?」

「そんなの迷信。気にしないで乗る、俺が決めたんだ」

 半ば強引に佐奈をボートに誘い込み、慎之輔が得意がってオールを動かしていくうちに、かなり岸から離れてしまいました。

「もういいよ、もどろ」

「何ビビってんの?大丈夫」

と言いながらわざと力強く漕ぎ出してみせると、ボートが左右に揺れ、危うく転覆しそうになってしまった。とっさに佐奈がボートの端をにぎり、

 

 キャー


と思わず叫んでしまった。すかさず助けを求めようとしたが、慎之輔はボートにしがみついている。

「あっ危な!ヤバ」


 危なって何?えっ、私のこと心配してくんないの?カッコ良かった先輩はいったい


 急に慎之輔への気持ちが冷めていった。


 帰宅してからの佐奈は、なぜか賢人のことで頭が一杯。


 恋愛の対象なんかにならない 私たちいつからの知り合いなの


 佐奈は小さい頃に思いを巡らせた。幼稚園のころ、砂場でママゴトをしたこと。小学校のころ、花見遠足の桜の木の下で、一緒にお弁当を食べたこと。時田家と沢崎家でキャンプに行き、同じテントから満点の星を眺めたこと。中学校受験に迷ったとき、賢人と同じ学校へ行きたくて、受験を止めたこと。

 

 思い出の数々が、昨日のことのようによみがえってくる。


 無理無理。だって私たち友だちなんだから


 自問自答しながら、佐奈はいつしか眠りに就いていく。


 翌朝、目覚めの悪い佐奈だったが、賢人に今の気持ちを打ち明けようと決めていた。


 心の準備が出来ぬ間に学校に着くと、向かったのは賢人がいるは教室。そこには大勢のクラスメイトがいたが、佐奈は意を決して心のうちを告げる。

「おはよ賢人。ちょっと話があるんだけど」

 その気迫に、圧倒されてしまいそう。

「どうしたんだ?そんな真顔で」

 どこか殺気立ってる。すると核心を突いてきた。

「ねえ私たちって、ずっと友だちだよね」

 この雰囲気を悟ったのか、クラスメイトたちが急に会話を止め、二人に見入っている。

「そう考えたら長いか、俺たちって。赤ん坊のころからだもんなあ」

「それってただの友だち・・・でいいんだよね?」

「友だちちゃあ、友だちだし」

「その先ってないの?」 

 この言葉を待ってたかのように、クラスメイトたちが息を潜める中、佐奈が声を振り絞った。

「じゃあ言うね・・・私たちって付き合わない?」

 いきないりの告白に、周囲の方が緊張してしまう。

「別にいいよ。俺もそのつもりだったし」

 すると教室内から一斉に、

 

 オメデト~


の声が。

 図らずもクラス中に拍手と歓声がわき起こった。この暖かな祝福が、佐奈の心を満たしていく。

 

 男女の間に、果たして友情は成立するのか?

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