第5話 天秤
「
「ん?いいけど、手短にね」
「昨日、剣道の試合に負けたらしいわね。どお?悔しい?」
「・・・えっ?僕の事、おちょくっているのか君は?」
「いいえ、まさか。間君のその悔しい思いを晴らしてあげようと思ってね。いい方法があるの」
「確かに僕は今、悔しいよ。でも君の手は借りない。この気持ちを晴らすには練習しかないんだ。通っている剣道場の先生からよく、『負けた時こそ強くなるチャンスだ』って言われていてね。だから、
負けて、その悔しさを糧に練習してさらに強くなろうとするなんて、ちょ、ちょっといい考え方じゃない。
でも、強くなろうとしているだけではそのうちボロが出るはずよ。
力を得た者が、その使い道を少しでも間違えれば、あとは地獄行き。
「間君はそんなに強くなってどうなりたいの?」
「そもそも剣道をやっているのは単に強くなって試合に勝ちたいからって理由だけじゃなくて、肉体以外に精神も鍛えて周りの人を助けたり優しくしたりできる人間になるためなんだ。
だから、そういった意味では強くなってどうかなりたいってのは無いかな」
い、いいじゃない。
なんて健全で崇高な精神の持ち主なの?
昔は人を殺すことだけを目的としていた剣術が、今ではこんな立派な考えを持つ人間形成のすべとなってるのね。
「わかったわ。間君はよっぽど素晴らしい指導者と巡り会えたのね」
「確かに指導してくださる道場の先生方はみんな素晴らしい人格者だよ。
なかでも、そこの道場を開いた先人がとても素晴らしい人だったらしいんだ。
なんでも江戸時代の人らしいけれど、幼いころ奴隷のようにこき使う奉公先から命からがら逃げ出し、その時お世話になった人がいて、日々健やかな暮らしがあるのはその恩人のおかげだってことで、忘れないよう石碑を立てて毎日手を合わせていたそうなんだ。
僕も試合の前はその石碑に手を合わせに行って、必勝祈願と道場を開いてくれるきっかけになったその恩人に感謝するんだ」
へぇ。そんな昔にも道徳心が高い人格者がいたのね。アタイも会いたかったものだよ。
「そしてその石碑にはこう書かれているんだ。
『絶望の淵から救ってくれたあなたを忘れない。
最大の感謝と敬意を。
彼女の名前は瑠璃。六番にあらず』
そういえば地湯さんと同じ名前だった。関係は無いと思うけど」
えっ?
そ、そんな。
まさか。
あの時、逃がしてあげた男の子?
ってことは。間君はアタイに手を合わせて感謝しているっていうの?
アタイが彼の
そんなアタイが、こんなまっとうな子をも地獄へ落とさなくちゃ・・・
いけない?
「地湯さん。大丈夫?顔色が悪いようだけど」
「今日は調子が悪いから帰るわ」
~帰宅~
「あれ?瑠璃君、学校はどうしたの?」
「調子が悪くなって帰ってきたわ」
「何か悩んでいることがあったら何でも言ってみてよ。僕でよければ力になるから」
「ありがとう毘炉さん。
・・・実は、カクカクシカジカで。アタイはいったいどうしたいいのか」
「つまり、使命をとるか、友達をとるかってこと?」
「と、友達っていうか、アタイが勝手にそう思っているだけであって、、、」
「そうだ。瑠璃君のまだ知らないことを教えてあげる。
僕の知る限り、閻魔大王様であろうと、この現世に干渉はできないんだ。せいぜい呪学院を卒業した細かくて弱い呪いをチョコチョコ送るくらい。それに年に一度、8月1日の
つまり、呪いとか地獄誘致とか瑠璃君の背負っているものすべて捨てて、2度目の人生楽しんじゃってもいいってわけ。
ただ、次に死んだとき、閻魔大王様に怒られておそらくまた地獄だろうね。
だから、再度訪れるであろう地獄の苦しみと、君が今かかえている悩みを天秤にかけて、どちらを選ぶか決めるのは瑠璃君次第」
え?それじゃあアタイはあの子たちを、、、
「どうしたの瑠璃君?涙と鼻水がすごい勢いで出ているよ。これ使って、ハンカチ」
アタイ、あの子たちを地獄へ落とさなくてもいいんだ。
「ジュルリ」
おわり
登場人物
江戸時代に絶命後、地獄で呪いの勉強をして現代へ輪廻転生
長い黒髪をなびかせる小柄なエリート呪い
地獄では瑠璃の先輩呪いだったが、現世では兄設定
普段何をしているのか不明なさわやかはにかみ兄さん
瑠璃の同級生 おせっかいでやさしいギャル
剣道を通じて肉体と精神を鍛える短髪醤油顔の好青年
~翌日~
「3000年振りの現世か。早速、毘炉と瑠璃に会いに行くか、赤鬼!」
「はっ!閻魔大王閣下校長先生の仰せのままに」
呪瑠璃(じゅるり) 団田図 @dandenzu
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