第4話 江戸時代
~翌朝~
「ジュルリ」
「ひ、毘炉さん。これはいったい何?」
「朝食のトーストだよ。さぁ一緒に食べよう」
きつね色に染まった四角い板切れの風貌。
寝起きの体を優しく包み込む香ばしい穀物の香り。
アタイの体が、胃袋から手が出てきそうなほど欲しがっているわ。
「いただきます。っん!っん!モグモグ!
ふ、ふ、ふまいー(うまい)!!げふっげふっ」
「大丈夫?急いで食べるからノドに詰まるんだよ。ほら、コレを飲んで」
「ゴクゴク。っん!?
苦いけど、甘くてまろやか。それになにより、鼻から抜けるトーストとは違った香ばしさがくせになるおいしさ。これはいったい何?」
「ミルクコーヒーだよ。ふふふっ。瑠璃君は何でもおいしそうに食べるね。ほら、こんどはトーストにバターやジャムを塗ってみるといいよ。
ところで、瑠璃君は前世の江戸時代ではどんな暮らしをしていたんだい?」
「・・・取るに足らない人生だったわ。
江戸時代、5歳になった頃さ、口減らしのために着物一枚で奉公に出されたの。
そしたら奉公先の主人がひどいやつでね、ろくな食べ物ももらえずにこき使われ続けたさ。
さらには名前を覚えるのが面倒だってんで、着物の背中に番号を縫い付けて、アタイら奉公人を番号だけで呼んできやがった。
アタイが17歳になったとき、5つ年下の新しい奉公人の男の子が来たんだけどね、アタイはもう自分の事で精一杯でさ、かまってやることができずにいたんだ。
そんなある日、夜中にふと目が覚めて
『ほうら、丁寧に舐めるんだ。決して嚙むんじゃないぞ』
『ゲホッ、ゲホッ。も、もうこれ以上は堪忍してくだせい』
『何言ってやがる!貴様をいくらで買ったと思っているんだ!主に逆らうんじゃねー!言うこと聞かねーと、おめーら奉公人全員叩き出してやるぞ。そしたら野垂れ死ぬしかねーんだぞ!』
主人は金に強欲なだけだと思っていたらそれだけじゃねえ、とんだ下衆野郎だったんだ。
翌日、その
そんときアタイは思ったね。こんな酷い現実で生き続ける意味なんてないって。
こんな世界なら地獄のほうがましなんじゃないかってね。
その夜、主人の蔵に忍び込んで抱えられるだけの小判を集めて奉公人みんなに配って全員を逃がしてやったさ。
それから主人を包丁で刺して屋敷に火をつけて始末してやった。
そっからはよくある話でさ、奉行所は奉公人の話なんか聞く耳もたねーで殺人放火の罪で即死罪。
川べりで貼り付けにされ、生きたまま焼き殺されたよ。死刑と火葬を同時にできて、灰はそのまま川へ流せばいいってんで、おみごとなシステムよね。
まっ、そんな所」
「あ、ああ。そんな所ね。君が現世に対して強い怒りと憎しみを持ち、呪いエリートになった意味がわかったよ。
ところで、話をしながらトースト5枚も食べるなんて、すごい食欲だね」
「それが、自分でも不思議なくらい食べ物にたいして執着というか欲というか、そんなものが出てきたの。だっておいしいんですもの。
ところで毘炉さんはどんな前世だったの?」
「僕?そ、そうだな、君と比べたらたいしたことないんだけど、、、
おやっ?もうこんな時間だ。早く学校へ行かないと遅れるよ」
~教室~
「瑠璃ちゃんおはよう」
「おはよう。お千絵ちゃん。あのさぁ、トーストって知ってる?」
「焼いた食パン?もちろんよ」
「そうか、知ってたのか。今朝食べておいしかったから教えてやろうと思ってな」
「うふふ。やさしいのね瑠璃ちゃんは。でも、私は朝はごはん派よ。納豆と焼きのりと卵に味噌汁。それだけでごはん何杯もいけちゃうの」
「そんなにおいしいの?是非今度教えてちょうだい」
「瑠璃ちゃん面白いうふふ。冗談よね。うふふ。まあいいわ、いつでも私の家に朝食を食べに来てちょうだい。ごちそうするわ」
「ありがとうお千絵ちゃん。ところで、アタイの前の席の殿方はなぜため息ばかりで元気がないのだ?」
「彼は
剣道の試合で負けた?
ふっふっふっ。
そうか悔しがっているのか?
さぞ相手が憎かろう?
さぞ恨みが溜まっているだろう?
絶好の獲物を見つけたぞ。
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