第36話 包囲網を突破しろ!


 朱音の隙を伺う。

 だけど朱音の黒い瞳から紅の姿が外れることはない。


 一見隙だらけに見えて、いざ攻撃しようとすると隙がない。

 それが紅の感想だった。

 いつも通り。

 それはステータス、武器、アイテム、が初期化されてもなにも変わらない。

 理由は朱音のPSスキルがそれを可能にしているから。


 対して紅の唯一無二の武器は発想力だ。

 それをフルに利用して対抗するしかない。


 故に包囲網を突破するのも俺様流でなにも問題がないはずだ。


「行くぜ! 加速!」


 紅のAGIが倍になった。

 そのタイミングで攻撃に出た紅。

 ほとんど同じタイミングで朱音の槍が紅に向けられる。


「あら? 残念ね、このまま串刺しになっちゃうかしら」


「へへっ、んなわけあるか♪」


 不敵に微笑む紅には自信があった。

 絶対に成功するという自信のもと、「ゴリラパワーカモン!」とパワーアタックと呼ばれるATXが倍になる初期段階で入手が比較的簡単にできるスキルを使う。

 加速と同じく二十秒しか持続時間がないのがネックだが紅と朱音の攻防に関しては二十秒もいらない。


 向けられた槍を身体で受け止める紅。


「へへっ。つ・か・ま・え・た♪」


 身体を貫通した槍をしっかりと左手で捕まえる紅。

 その手には力が入っている。

 絶対に離さないという意志が感じられる。

 紅の考えがわからない。

 そう言いたげに朱音の表情が曇る。


「下着盗んでも恥じらってくれないなら――」


「別にいいのよ。今から里美ちゃんじゃなくて私の男になっても♡」


「――相手の宝物武器を盗んで俺を追いかけてもらう! つまり朱音が俺様を必死に追いかけてくる。これも一つの男の夢だ!」


 全身を駆け巡る痛みを脳が妄想した、ダーリン待って~♪ 私から離れないで~! と何処かの少女漫画のような展開に胸を膨らませて気合いで乗り越えようとする男。

 朱音の装備は既に破壊耐性が付いており、紅の眼をもってしても破壊できない。

 だったら強奪を試みた紅はフルパワーで朱音と力勝負をする。


「ちょ……なにを……」


「その槍は貰うぜ! そして俺専属の槍にするぜ! 可能ならその防具も全部身ぐるみ剥ぐまでだ!」


 破壊ができないなら。

 中々恥じらってくれないなら。

 全てを奪って自分の物にすると豪語する紅に。


「ちょ! ばかぁじゃないの!」


 と、ちょっとこの後の展開を想像してしまう朱音。

 どんなに強がっても、好きな人に裸体を晒す行為は……。

 それも強引に身ぐるみを剝がされて……朱音の娘たちが喜びそうな行動は朱音にも有効だった。


「ばか!? その割には顔が真っ赤だぜ、マイハニー!」


 里美がいないことをいい事にその場のノリだけで言葉を紡ぐ男は、力任せで朱音から槍を奪うと、すぐに距離を取ってアイテムツリーから毒煙玉を使って朱音と包囲網を敷いてる者達の視覚を封じた。


 槍を取られたことで、反応が鈍い朱音。

 その理由は明白で。


「へへっ。次はその防具を貰うぜ! さてお母さんはどんな下着を付けているのかな?」


 と、耳に声が聞こえてくるから。

 変態と罵られない、ことを直感で把握していた男はさり気なく戦場を脱出する。


「ふふっ、アリスさんか碧さんの防具でもいいな~」


 その言葉で二人の動きも牽制して、朱音の槍を強奪した男は全速力で最高高度で太陽をバックにして里美たちがまだ寝ているであろう拠点に戻っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好感度MAXの義姉と幼馴染の恋人共にとりあえず弓使いで頑張りたいと思います~三人の同居生活は色々と騒がしいようです~ 光影 @Mitukage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ