第35話 その出会いは・・・
空から姿を見せる朱音。
装備は整えられている。
飛行用の六枚の羽根はまるで天使の羽のように美しい。
凛としていて、それでいて光沢がある羽に反射した光が紅を照らす。
朱音の降下に合わせて徐々に二人の距離が近づく。
「忘れてないかしら?」
その言葉に警戒心を見せる紅。
「ダーリンは私とお風呂入った仲じゃない。見るもの見てるんだし今さらアバターの下着見られたくらいで私が恥じると思う?」
「…………そうだった」
「そうだ。後でお気に入りの下着付けた画像送ってあげるわ」
その言葉にLOWからHIGHに気持ちがジェットコースターみたいになる紅。
「マジで!?」
「えぇ」
女神のような笑みを見せた朱音が紅と同じ高度までやってきては止まる。
二人きりの世界に入った紅と朱音。
お互いの瞳がキラキラと輝いているのは…………。
その意味合いが違っても、周りから見た二人の距離はとても近く、恥じらいのないなんでも許し合う恋人のような距離感の会話でしかない。
朱音が紅に甘いのは既に多くのプレイヤーが知っている。
そして紅が朱音に対してどこか好意を持っているのも薄々気付いている。その好意が恋愛絡みかは別として。
「ところで里美ちゃんたちはどうしたの?」
「寝てますよ?」
「ふ~ん、一応聞いてあげようか?」
「はい?」
「ダーリン逃走防止策としてアリスと碧が地上に隠れているんだけど、私含めた三人相手に勝てる勝算はあるのかしら?」
その質問に紅の頭が現実逃避をした。
そして、ふっと鼻で笑う。
「やれやれ。朱音さ、俺を誰だと思ってるわけ?」
「うん?」
その言葉に、ちょっと嬉しそうに、そして期待したような微笑みを浮かべる朱音。
対して紅はドヤ顔で宣言する。
「逃げ足なら誰にも負けない逃走王とは俺のことだぜ?」
カッコ付けるかと思われた瞬間。
その言葉を聞いていた朱音を含めた全員が開いた口が塞がらなくなる。
この場に置いて警戒しながらも武器を構えていないのは戦うのではなく逃亡の邪魔になるからだったとは誰も思っていなかったからだ。
なにより、朱音たちを相手に逃げると宣言してもそれを実際にやってのけるのは至難の業ある。
それを当たり前のようにできると言わんばかりのドヤ顔を見せる男に朱音の思考回路にノイズが走る。
「えっ!?」
理解に苦しむ朱音は言葉を続ける。
「逃げてばかりじゃ勝てないと思うけど?」
「チッ、チッ、チッ、それは違うんだな~」
「どう違うのかしら?」
朱音の視線が紅から一瞬外れる。
その時、朱音の視線は気配を完全に消し地上から紅に近づく二人の仲間へと向けられた。
「例えばの話。条件が同じ所からスタートした俺たちの差はそう大したもんじゃないはずだ」
「ステータスの話のことかしら? それならそうかもしれないわね」
「だよな」
心臓の鼓動が早くなる紅。
逃走とはつまり闘争でもある。
「つまり、PS以外の差がいつも以上に限定的なら俺に不可能はねぇ! 俺の妄想シリーズは最速で最速の領域にいるぜ!」
次の瞬間、紅が特殊ブースター(飛行用アイテム)の出力を最大にして朱音の視界から消えた。
そして朱音を中心地テントして、空中を目にも止まらぬ速さで飛び回り始めた紅はニヤニヤと不敵な笑みを見せ始める。
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