第三章 神災者絶体絶命

第34話 Equipment Kill Start


 夜明け。

 紅は何か面白いことはないかと腕を組んで少し考えていた。

 紅が求めているのは純粋な好奇心の追求。

 ただイベントに参加して勝つだけでは、紅の心は満たされない。

 楽しく参加して、苦悩の果てに勝った時、達成感に心が満たされるからだ。

 だからこそ普通にクリアしても心の欲はある程度しか満たされないし、最終的には消化不良となってしまう。それを避けるためにすかすかの脳をフル回転させているとふとっ妙案を閃く。


「里美たちが寝ている間は俺様が皆を護るぜ!」


 至らない事を考えさせたら紅の右に出る者はいようか。

 そう言いたくなるぐらいに今日の紅は最初(寝起き)から頭が冴えていた。

 厳密に言えば……ソワソワして眠れなかっただけではあるが。

 そのおかげで解禁時間に合わせて近づいて来るプレイヤーの気配にいち早く気づいたわけだ。


 紅の前方では。


「ようやく見つけたぞ! 問題児ぃ!!!」


「神災討伐先遣隊第四小隊突撃!」


「「「「「ウォォォォォ!!!」」」」」


「「「「「今日までの復讐じゃあああああああ!!!! 覚悟ぉぉぉ!!!」」」」」


 と、なにやら多くのプレイヤーから既に共通の敵として見られていた。

 

「俺……なんかしたのか!?」


 いまいち狙われる理由が良くわかっていないがために、紅は軽く困ってしまった。どうやら人気者の俺に会いに来たと勘違いしていただけに、敵の意図が全く読めない紅はとりあえず戦闘態勢に入る。


「ならここで一曲。――青少年な俺様。俺は俺の可能性を信じます」


 紅が歌に合わせて、ちゃんと操縦可能な戦闘機俺ちゃまに乗る。

 戦闘機と言っても、かつて紅がしていた戦闘機と言っていた矢に酷似したフォルムで足場の安定感と最高速度が上昇したまともな戦闘機である。

 イメージとしては空飛ぶボードと言ったところか。


「いつかまた会いましょう 君たちに会いましょう 俺とえっちな記憶あっても問題ないでしょう」


 自ら六人パーティーに突撃する紅。

 敵は四枚の羽根を使って飛行している。

 正規のルートで飛行スキルを手に入れた者たちに、亜種の方法で飛行能力を得た者が武器も持たずに歌いながら近づく光景は違和感しかない。

 なので、当然警戒される。


「会いたい気持ちに嘘をつくぐらいなら 素直に教えて欲しい いつでも俺はウェルカムで出迎えるから」


 六人パーティーから放たれる遠距離攻撃を巧みな動きで躱す紅は一人の男に難なく近づき装備の耐久値に対してKillヒットする。


 ギリギリで紅の真骨頂である眼(スキル)を手に入れた男に不可能はない。


 夜中小百合が眠っている所にエリカ特性の睡眠薬を盛り、マヤから貰ったスキルで盗んだ男は『死の目』を難なく使いこなす。


「なずけて俺様妄想シリーズ裸祭り!」


「な、なに!?」


 驚き逃げるプレイヤーにピタリと貼り付いて拳で攻撃を続ける紅は腰宛て、鎧、籠手、数珠、武器の順番で破壊していく。

 そして遂にパンツ一枚になった男はもじもじとして動きが鈍くなる。


「皆許してくれるよね 裸祭り開催でも 男も女も裸が一番 ありのままの姿を皆に見せて分かち合いましょう~♪ 俺とマヤにいけない夜があっても 二人にバレない限り秘密の夜として 二人の記憶になります♪」


 どんどんテンションが上がっていく男はカミングアウトの発言もしてしまう。

 紅の頭の中では三人はまだ寝ているのでセーフとして判断してだ。


 二人目の男が恥じらい戦意喪失になり、三人目は紅一点の女性プレイヤーを狙い始める紅に「きゃーーーー変態ぃぃぃ!!」と必死に逃げ始める女性プレイヤー。

 誰も考えていなかった戦法に女性プレイヤーは困惑。

 そしてそれをフォローしようと残りの三人が女性プレイヤーと紅を追いかけるがAGIに特化した二人の追いかけっこに参戦することは叶わない。


「皆許してくれるよね 男女平等主義の俺様の信念 本音は美しい君の裸体を見たいから 欲望に忠実になります 今日出会って確信しました 俺様には君が必要だよ~」


 愉快な歌を聴き、女性プレイヤーがいるパーティーが密かに離れ始める。

 また身体に自信がない男性プレイヤーたちも、後退りする。

 全世界に自分のアバターとは言え裸が公開されるのは恥ずかしいからだ。


「マヤのように肉食な子も 君のように恥じらう子も とても魅力的に感じる俺様は中々一人を選べないよ~ 繰り返される欲求こそ俺様だから♪」


 そして身を護る全ての物をKillヒットで壊された女性プレイヤーは派手な下着姿を全世界に公開して海の中に自ら潜り死を選んだ。

 死ねば装備やHPが回復するからだ。ただしポイントは戦ったプレイヤーに奪われるが、女性プレイヤーに選択肢は最早なかった。


 そして紅は思う。

 これこそ世界に通用する技ではないのか? と。


「へへっ、これならお母さんにも通用しそうだな! にししっ」


 戦意喪失で逃げて行く者たちの背中を見ては、一人戦闘機の上で微笑む男に語り掛ける声。


「お母さんって誰のこと?」


「朱音さん」


「朱音さんって私のこと?」


「へっ?」


 一人妄想を続ける紅の頭上に天の声とは別に気配なく近づいた朱音の姿。

 思わず息を吞み込んだ紅は「もしかして……おっけー?」と恐る恐る聞くのであった。主語がなくてもその意図が正しく朱音に伝わったのか、ニコッと微笑んでくれた。

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