2 「通販アプリで御守りを買った」


通販アプリで御守りを買った。


別に何があったという訳でもないが、商品のページを見ていたら、どうにも目に止まったのだ。

特に珍しくもない黄色の開運御守りで、値段は「877円(税抜)」。


ちょっと高かったが、丁度小銭を消費したい気分だったし、何故か分からないがどうしても心に引っかかった。


出品者の情報を見ても、真っ暗なアイコンで、名前は「お寺の物売ります」·····。


怪しいっちゃ怪しいが、危険な宗教ではなさそうだし、意を決して買う事にしよう。

別に御守りの効果を信じている訳では無いが、やはり何か感じる。

これからの運気の動きを体感するために、日記をつけることにする。



◇◇◇


一日目「到着」


朝、ゴミ捨てのついでにポストを見たら、既に届いていた。

開封して部屋の棚に飾った。良い感じだ。



2日目「転んだ」


隣町のスーパーに行こうと歩いていたら転んで、右膝を擦りむいた。それ以外には特に何事もない。良いことも悪いこともだ。やっぱり御守りなんて効かないのだろうか。


3日目「突き指した」


昼ごはんを作っている時、フライパンに手を伸ばしたら、勢い余って指を壁に突き刺してしまった。結構痛い。それ以外は特になし。


4日目「親戚が死んだらしい」


夜ご飯を食べていると、母から連絡があった。話を聞くに、どうやら親戚のおじさんが死んだらしい。葬式に行くか?と聞かれたが、正直なところ顔も思い浮かばないので断った。

なんだか悪いことが続いているような気もするが、案外こんなものだろうか。


5日目、母が死んだ。


親戚の葬式に行く帰りに自動車が電柱に衝突した。病院から連絡があって直ぐに向かったが間に合わなかった。ふざけるな。なんなんだ。


六日目「轢かれた」


母が死んで、葬式の準備をしなけれはならない。びょいんからの帰り道で、角から飛び出してきた自転車に轢かれて頭を打った。急いでいたので帰ってきたが、まだ頭が痛む。だが、今はそれどころではない。


7日目「頭が痛い」


父や弟と連絡を取りながら葬式の手配をしているが、とにかく頭が痛い。腫れ上がってはいないが、脳みその内側がジンジンと痛む。病院に行こうと思う。


8日目「わるいらしい」


医者にかかった。どうもわるいらしい。

直ぐに手術した方がいいと言っていたが、手術を担当できる医者が、少し前にじさつしたらしい。運が悪い。


9日目「」


なんだかずっとあたまボートする。痛い。父と弟が来た。母はこない。ひどくつらい。


十日目。


今日は手術らしい。·····なんの手術だっけ?


十三日目「最悪」


ベットで目が覚めた。ひゅじゅつは失敗らしい。隣の部屋からそう聞こえてきた。自分でも記憶が怪しい。なんだかずっと意識がはっきりしないし、頭もいた。なんだか無性に腹が立つ。これは誰かのせいだ。誰だろうか。思い出せない·····。


十四日「家」


家に帰ってきた。しばらく様子を見て、再び手術をするらしい。まだ死なないかもしれな。でも痛い頭。ふざけるな。なんなんだ。なんなんだ。


15日目


数日ぶりに意識がはっきりしている気がする。そして今、何故自分がこんなにも辛い目にあっているのか分かった。

·····あの御守りのせいだ。



日記を閉じて、部屋の棚へと向かう。


立てかけておかれた地味なお守りを引っ掴み、紐で閉じられた口を破る。


布の避ける音がして、薄紙に包まれた木の破片が出てきた。


「開運」と縫われた布から転がり落ちた木の破片には、筆で書かれたであろうただ一言────、



『苦しんで死ね。』




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