海の底で

@ituku-29

第1話

 私は海の底で光に照らされ、波の上で揺れる日の光を眺めているような感覚になった。

きっと、その光は自分の体の冷たさを忘れさせるほど暖かいのだろう。でも、決して今の私は近づいてはならない。己の愚かさをもっと身に染みて感じなければ、触れられない。


 私の身体は冷たいのだ。心までも冷たいのだ。私は人に自分の本心を見せる事が嫌だ。

自分の本当の姿を見せるのが嫌だ。

私の汚い人間の面を覆い被せるように嘘をつく。ダメなことだって分かっている。でも、どうしてもその人間味のある自分は見えないところへしまい込んで、上っ面の綺麗な自分を見て欲しいと思ってしまう。結局は、泥に泥を塗るような作業なのだろうけど。素直に喜べない。

私よりも秀でているものがいる中で褒められても、喜べない。そんな自分が恥ずかしい。自分が一番なの。だから、何も嫉妬をしなくてもいいのに。私は嘘をついていない。あれは嘘じゃなくて、本当の事だったのだ。

私はあの場所に行きたくなかった。

その気持ちから目を背けて何になる。本心なのに、相手からは嘘だと疑われる。私は、他人から疑われるのが嫌いだ。他人からの視線が苦手だ。自分が何をした?と言いたげになったが、私が恨むような人じゃ無い。なのに、自分の中に少し恨んでいる部分がある。醜い自分だ。でも、こんな自分も好きだ。素直な自分だから。


結局は、自分に必要な部分だったのだ。


 あのまま卒なく自分の本心と背くような事をしていたら、壊れてしまうだろう。別に光に触れられなくていい。交れなくていい。周りと違うくっていいんだよ。むしろ、最高だよ。私が光を手放した分、自分というもの掴んだ。自分という未知のものは、光か闇かも分からない。

でも、少なくとも自分にとっては光だ。自分が憂鬱になることはやらなくていい。周りに恥ずかしい奴と思われてもいい。恥ずかしさを自覚していればいい話だからだ。お陰で今の自分のやりたいことを見つけたんだ。どんな功績でも届かないほどの"宝物"。価値は人によって様々だ。対象によっても価値が変わってくるだろう。自分の価値を見出すこと。私に出来ると言うのだろうか。価値を見出す為だけに悶絶し、絶望し、苦しんだ人々がいるのだ。

 助ける事が価値だとしたら、助ける方が助けられる方に助けられている事になる。助ける事は助けられる側の悪魔にも成り得る。平等と公平は全く違うものだ。

 助ける事は、平等であれば助けられた側は何も文句が言えない。言い出せば、自分が均衡のとれたバランスを崩すことになるから。という助けた側を恨めない気持ちに苛まれる。

 公平であれば、一部のものは多く助けられるものに対して嫉妬する。自分の方が苦しくても、助ける側は見える一面だけを掬って助ける。苦しいの基準は人によって違う。それは両者が理解しているはず。人に対して公平に接する事は出来ない。

"必ず何処かで溢してしまう"

人を傷つける事になることがある。


 かといって、人助け以外の価値の基準になるものは、人助けと同じように残酷である。死んだって解放されない。元々我々は存在しない。架空の世界に皆等しく喜ぶ価値を求めるな。自分の楽しい事をひたすらに感じる。これが私なりの価値だ。かといってこれに縋ってはいけない。自分自身で立つ事は忘れてはならない。海の底、息が続かない、自分で立てない、身体は冷たくなる。こんな見窄らしい私を皆の前で見せたく無い。

 自分自身の価値に溺れた自分は愚かだ。でも、ここだって暖かいんだよ。


むしろ、ここの方が暖かい。


全員共通の暖かさなんて無いから。自分の暖かさを大切にして生きていればいい。自分を自分で褒めるんだ。そう考えた途端、心がすうっと軽くなる。広い海の中で善良を決めるなんて馬鹿馬鹿しい。ただ、誰かの価値を奪うのは悪だ。これだけは忘れてはならない。

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