43. それから


「まさかこんなに忙しいなんて……!」


 そんなこんなで事は丸く収まり、ここ最近はずっと婚姻の儀の準備をしているのですが……もう忙しさで目が回りますの。

 日程、会場、招待客、ドレスなどその他諸々……。


「ねぇ、クロエ。これは?」

「この方は……」

「辺境伯ですな。なので……」


 クロエやジェームスが手伝ってくれているのでなんとかなっていますが、私も陛下のように執務室から出られない程忙しくなりました。当の陛下はその倍ペンを動かしてますの。世界会議の後処理と普段の公務、王妃のなんて無茶すぎますわ……。

 なんて考えていると、コンコンとドアを叩く音がしまして。


「……オリヴァーか」

「紅茶を持って参りました。根を詰めすぎてもいけませんし、一旦休憩なさっては?」


 顔も上げずにペンを動かしたままって……ノックの音だけで誰かわかりますの!?


「いや……もう少し……」


 仕事中毒気味な陛下。能無し怠惰なあの国王や浮気殿下には散々困らされましたけれど、これはこれで問題ですわね……。


「陛下、オリヴァーの言う通り休憩になさってはいかがです? ああ、私もお茶にご一緒しても?」


 私もそろそろ休憩を挟もうと思ってましたし、陛下には絶対必要ですわ。

 と少々強引にティータイムにしまして。ジェームスやオリヴァー、クロエも交えて談笑しつつゆっくりしていたのですが……。


「そういえば、婚約状態ということはプロポーズは必要なかったのでは?」

「いや、ダグラス様とアレッタ様だぞ? 言葉にしなきゃずっとこれだっただろ」


 とクロエとオリヴァーが唐突に話し始めましたの。


「「婚約は破棄されるものですわよ(だろ)」」


 思わず陛下と同じことを言いまして。

 クロエは紅茶を吹き出しそうになり、オリヴァーは目が点になってますの。ジェームスもどこか遠くを見ていますが。

 私達何かおかしなことを言いましたか?


「いや、それ勘違いですから。世の中の婚約して結婚した方に謝って下さい」

「つか俺に謝れ、ガチで。俺は絶対婚約破棄するつもりないからな!」


 と呆れられ怒られ……。

 ん?? 婚約破棄するつもりはないって一体……。


「あ、俺結婚するから」

「え」


 陛下が処理できずに固まりまして。クロエも驚いてますの。


「今言います? 私そんな話聞いていないのですが」

「……」


 オリヴァーが顔色を失ってダラダラと冷や汗を流してますの。

 わかりますわ。クロエに怒られると怖いですものね。と、言いますか。


「展開早くありませんこと!?!?」


 え、ついこの間相談を受けたばかりで……いや確かにもう二ヶ月くらい経ちましたけれど……!!

 そんな時、本日二度目のノックが。


「アイラです。お客様をお連れしました」

「入れ」


 そういえば、まだギリギリアイラさんが働いている期間でしたわね。全く会ったことはなかったですが。

 さてそのアイラさんが連れてきたのは……。


「お久しぶりですねぇ。突然の訪問失礼しますよ」

「ポピーさん!?」


 あのグランマポピーさんがどうして……ウェディングドレスの採寸かしら。

 

「アイデアが急に浮かんでね。無礼は承知で陛下の採寸させていただきたくて」

「別に構わないが……後にして欲しい。見ての通り休憩中だ」

「よければ一緒にどうですの?」


 と言えば流石のジェームス達。ささっと準備してくださいますの。私がこういうことまで見透かしているなんて、ちょっと流石すぎますが……。


「アイラさんもどうです? おそらく短いお茶会ですけれど」


 未だにアイラさんのことは嫌いですが、私もそこまで非道じゃありませんの。

 アイラさんも言われた通りに席につきまして。あら、所作自体はしっかりしていますのね。


「それにしても驚いたわ。あんな仲睦まじく見せつけておいて、あなた方まだ恋仲じゃなかったなんて」


 と紅茶を飲んでアイラさんが一言。

 はい!?!?


「使用人の間じゃずっとラブロマンス的に語られていたのに」


 と言いますかこの三ヶ月そこの執事長の当たりはキツいし、しごかれたし大変だったわ……と普通のように続けていますが、ちょっと待ってくださいまし!?


「恋、仲……?」


 ああほら陛下の時が止まってますわ。

 いきなり出す話題にしては破壊力が強すぎますのよ!?!?


「俺は……アレッタ嬢と……恋仲、だったのか??」


 ……そこからですの?

 陛下以外の場にいる方々全員の気持ちが一致した瞬間でした。


「ダ、ダグラス様、例えばほら、その、アレッタ様といていつもと違ったことはなかったのですか?」


 とジェームス。


「離れたくないとか、すげえ離したくないとか」


 と続いてオリヴァー。


「動悸が凄くなるなど……」


 とクロエ。

 なんですのこの状況。必死に教えようとする方々に、言われて悩む陛下。ひたすら笑いを堪えるのに必死なポピーさん。そしてついていけない私。


「確かに……アレッタ嬢といると不思議な高揚感と独占欲があった。離したくないし離すつもりもない。動悸は……たまに激しくなったな。これが恋仲というものなのか?」


 と陛下が仰ると、周りから呆れたようなため息が。

 ついていけない私でもこれだけはわかりますわ。まさか陛下ってもの凄く鈍感なのでは?

 ……全く。しょうがないのですから。



「鈍感陛下、もうすぐ貴女の妻が申し上げますの。それ「恋」ですわよ」

 

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悪逆王に嫁がされました……が、ただの強面で小声でしたの!?〜本当は優しい陛下の汚名返上したいのです〜 秋色mai @akiiromai

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