42. 陛下、よく聞いてくださいまし!
「おはようクロエ……晴れましたわね」
「凄い晴れましたね」
今日は狩猟祭当日。昨日まで猛吹雪だったのでどうなるかと思っていましたが、起きれば私の心のようにすっきりとした青空が広がっていましたの。
そしてあちらこちらからザクザクと音が。王城もギリギリ見える広場も雪かきの人でいっぱいですわね。皆様元気すぎませんこと??
とりあえず着替えて雪かきを手伝うことにしますの。
「陛下もなさってましたのね! おはようございますわ!」
「おはよう、その格好は……」
「私も雪かきしますの!」
かきつつ話を聞きますと、冬の数少ない行事である狩猟祭は朝から雪をかいてでも行いたいのだとか。だから今頃国中が雪かきをしているだろう……って想像したらちょっと面白いですわね。
「……これくらいで十分か」
「こんなに動いて狩りの時は体力は残ってますの?」
「それはまた別の体力だ」
「そんな別腹みたいに……」
城の中に戻って軽く朝食を取って、広場に向かいました。
クロエは嫌そうな顔をしていましたが、昨年と同じように狩猟用の服で肉シチューを配りますの。今頃陛下は猪でも狩っているかしら。
「王妃様みてみて! これとーちゃんが狩ったうさぎの皮で作ったマフなんだよ!」
「こら! 王妃様に失礼でしょう!?」
「失礼なんかじゃありませんわ! 立派ですの」
大人も子供も大はしゃぎで、みんな笑顔で……。ああ、なんて素敵なのでしょう。
楽しく談笑していると、人が集まってきましたの。
「王妃様!? まさかの今年も!?」
「今日もお美しいわ」
「もしかしたらまた王妃様が愛の捧げ人に!?」
「まっさかぁ!」
「王妃様、寒くはありませんか!?」
あっという間に囲まれて、ぎゅうぎゅうに。ちょ、ちょっと待ってくださいまし、私の耳は二つだけですの! とりあえず肉シチューをよそいますから!?
「アレッタ嬢」
処理が追いつかず少々戸惑っていたところに、はっきりと声が聞こえましたの。
「陛下!」
陛下が大きな猪を抱えて帰ってきまして。広場は一気に沸きますの。
「これは今年の愛の捧げ人は国王陛下に決まりだな!!」
「何て仰るか賭けようぜ!」
「気になるわぁ〜。国王陛下って王妃様と一緒にいると表情が全く違うもの!!」
陛下はそんな会話を耳にして照れくさそうにしていますの。うふふ、かわいいですわ。
……ん?? つまり私陛下からプロポーズや愛の言葉を言われますの??
いやいやいやいや自意識過剰ですわね。陛下は私のことなんて……。
『……アレッタ嬢は、俺の婚約者だ』
『それは……俺がアレッタ嬢の事を好いてもいいということか?』
『俺の妻の名を……軽々しく呼ぶな』
ブワッと体が熱くなりますの。
私は、どうして気がつかなかったのでしょう。こ、これは、つまり、マズいですわ!!
いてもたってもいられず、剣を持ちまして。
「クロエ、肉シチューを頼みますわ!!」
「嫌な予感しかしないのですが!?」
そのまま荷馬車に飛び乗って、狩場へ。
あら、これ去年と同じような……デジャヴかしら。
ごめんなさいクロエ。淑女がすべきことではないのはわかっていますわ。というか次期王妃としての自覚がなさすぎますの。けれど、一生に一度のお願いですわ。
このままではいけないのです。このまま陛下からプロポーズされるなんてあってはなりませんの。
「さて、勢い余ってきたのはいいものの、獲物はいるかしら」
昨日までの猛吹雪で山は雪だらけですの。一面銀世界ですわ。
まだ諦めずに狩ろうとしている方々をちらほらと見かけつつ奥へ。何がなんでも、陛下のよりも大きな獲物を取らなくては……。
「絶対に私が……」
「絶対になんだ?」
!?
後ろから声が聞こえまして。心臓が口から飛びてたかと思いましたの。う、嘘ですわね? こんな短時間で……。
「ひぇ、ひぇいか……どうしてここに?」
「急いで追いかけてきた」
珍しく息が上がってますわ……まさか森の中を走ってきましたの!? 私の足跡を追って!?
「何をしに森へ? 何故こんな無茶を?」
ズモモモモと効果音が聞こえてきそうなくらい怒ってますの。
い、言えませんわ。言えませんの。これだけは……!
「アレッタ嬢!」
「っ!!」
以前痴話喧嘩に巻き込まれたことはありましたが、修羅場を経験するなんて初めてですの……!!
「グオオオオオ!!」
「「うるさい(ですわ)!」」
緊迫した状態だというのに騒々しい方がいますので二人してキッと睨みましたら……熊?
悪逆王とまで言われた強面と断罪までされた悪役顔に怯えた熊は一瞬勢いを無くしますの。
流石に熊は危ないと、剣を抜きまして。
ザシュッ!!
相手が体長1mくらいで助かりましたわ。2mだったら少々苦戦したかもしれません。
今度は返り血がつかなくてよかったですの。クロエにこれ以上怒られずに済みますわ。
「さあ陛下、帰りましょう! 心配をおかけして申し訳ありませんでしたの!」
「……アレッタ嬢は負けず嫌いだったのか?」
「いいえ、ただ私が陛下より先に特別な愛を伝えたかっただっ!?!?」
咄嗟に口を押さえましたが、時すでに遅し……。
陛下は目を丸くなさってますの。
「アレッタ嬢、それは、つまり……」
「い、言わないでくださいまし! 楽しみは待つものですのよ!!」
陛下は上機嫌に、私はもう羞恥で爆ぜそうになりながらも、広場に戻りました。
そして、ジェームスとオリヴァー、何よりクロエに叱られまして。民に熊が喜ばれまして。
楽しい空気のまま、夜が訪れて、焚き火に照らされた雪がキラキラと輝いて。
司会の方が盛り上がるように紹介をしてくださっていますのに、心臓の音がうるさくて、よく、聞こえませんの。もう私の心臓ったら最近忙しすぎますわね。
覚悟を決めて、目の前に立つ陛下をじっと見つめ、この特別な気持ちを口にしますの。
「陛下……いえ、ダグラス様。私は、貴方様の隣にいると、変になりますの」
「幸せで、楽しくて、嬉しくて」
「でもたまに苦しくて、もどかしくて、嫉妬して」
「私はダグに恋をしてしまいました」
「私と、婚姻を結んでくださいましぇんごど?」
っなああああああああ!! 私は!! どうして!! こう!!!
頭を抱えて悔しがっている私を尻目に、陛下はいつの日かのように吹き出しまして。
「プッ……ハハハッ!!フハハッ」
そんなに笑わなくて良いじゃありませんの!!
「そ、それで返事は……」
私は、善人ではありません。悪役としてこの国に嫁いできましたの。国のため、陛下のため、なんて全部知ったことではございません。
あの嫁いできた日、“私が”陛下を支えたいと思って嫁ぐと決めたのです。
そして今ここで、”私の“恋を優先すると決心しましたのです。
「アレッタ・フォーサイス嬢、俺と結婚してほしい。俺は生涯、いや生まれ変わっても君を愛し守り抜くと誓う」
私のプロポーズに対する返事ではありませんの!?!? と驚いていれば、「流石に言わせてくれ」と困ったように笑われてしまいました。
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