ハジメマシテ、公爵様
バラやツツジなど、多種多様の植物をサーシャは駆け回りながら見ていた。
「こ、これはタンポポ!サバイバルにとっては必需品だわ!」
「おい、そこで何をしている。サーシャ・レディール」
「…へ」
リサから学んだ食べれる植物を見て一人で盛り上がっていたところ、後ろから爽やかなスっと入ってくる声がサーシャの名前を呼んだ。
「ガーディアンご令息様!?…お初にお目に掛かりますわ」
後ろに居たのはガーディアン公爵のご子息であるノア・ガーディアンだった。
「そんな堅苦しい挨拶はよせ。それで此処で何をしていたんだ?サバイバルがどうたらと言っていたが」
「その、私とある目的のためサバイバルの勉強をしているのですわ!」
「ほう、勉強熱心なのはいい事だが此処から先は立ち入り禁止だ」
「そうだったのですね。失礼しましたわ」
「いや、別に良いが。それと、お前悪役のフリをしているみたいだが全然出来ていない」
「嘘、あれは完全に悪役でしたわ!」
「悪役はもっとボロボロな制服をあげたり物を捨てたりするだろ」
「なんて残虐ですの…」
「当分は無理そうだな」
「…つ、次こそ完璧に悪役になりきって国外追放を目指しますわ!」
「……国外追放?」
「あっ、ガーディアンご令息様!これは違いましてよ!」
「少し話を聞こうか。サーシャ・レディール」
「…私は、……いえ、さっきのは聞かなことにしてくださいまし」
「…ふむ、成程な」
「…成程…とはなんですの?」
「いや、こちらの話だ。それと俺は令息じゃない。父上はつい先月他界して俺が公爵になった。」
「も、申し訳ありません!この御無礼をお許しくださいませ…」
「いや、いいんだ。一部にしか伝えてないからな。それよりサーシャ・レディール。いや、サーシャ。無事に国外追放になるといいな」
ノアはまるで獲物を逃がさないというかようにサーシャを見つめていた。
月が満ちた頃、サーシャはまた寮を抜け出して植物を見ていた。
「は…!こ、これはヨモギ!あっちはツクシだわ!」
リサから習いたての植物を見つけ、大はしゃぎをしていた。
「ツクシはアク抜きをして卵とバターのソテーにすると美味しいんですわよね……ん?美味しい…?」
食べたこともない、食べられると教えられただけ、ツクシに合うメニューすらも知らないサーシャは自分の口からポロッと出た発言に違和感を抱いた。
何故だと数分考え込んでいるといきなり視界がブラックアウトし、『誰か』の記憶が蘇る。
誰かに刺されている記憶や『聖女サマと王子様』というゲームをしている記憶など様々な記憶が出てきた。
「な、に、この記憶、知らない、しらな、…」
いきなりのことで気が動転する。
だが、これはお前の記憶だと言うように『聖女サマと王子様』に出てくるキャラクターに私、いや、サーシャ・レディールが居た。
つまり此処はゲームの世界と言っても過言ではない。
「……そういうことなのね…」
状況を整理した私は気持ちを落ち着かせ、前世の記憶を思い出した。
前世の職業は確か製薬開発者をしていた。
とてもと言っていい程ブラック企業で現実逃避として暇さえあれば『聖女サマと王子様』をやっていた。
『聖女サマと王子様』のキャラクター設定はディティール公爵家長男ノア・ガーディアン、ザイカール魔法学園唯一の平民リンカ・ビビカール、そしてディティール公爵家悪役令嬢のサーシャ・レディール、その侍女のリサで構成されていたはず。
サーシャの行動は度を過ぎていて最後は処刑に…処刑、?
怖くなり私はツクシを両手に持って寮に帰った。
「……お嬢様?」
怒っている、あの優しいリサが怒ってる。
「リ、リサ!これはその、えっと、」
「こんな時間に可愛らしい年頃のレディが出歩いて、終いには両手にツクシを持って帰ってくるなんて……私何か教育間違えたんですかね…」
「リサは悪くないわ!ちょっと習ったばっかりで浮かれていたの、ごめんなさい」
「言ってくだされば次は私も着いていきますから、一人で出歩かないでくださいね。約束ですよ?」
「リサ……!ありがとう、約束ね!」
優しい、でもリサって私を裏切るのよね。
「……裏切る、?」
「…お嬢様?」
「……いえ、こっちの話よ。気にしないでちょうだい。」
「かしこまりました。では私は部屋に戻りますので、おやすみなさいませ。」
「えぇ、おやすみなさい」
私は人には頼らず、前世の記憶だけを頼りに生きていくしかないのかもしれない。
国外追放に憧れて悪役令嬢のフリをしていたのに冷酷非情な公爵様に好かれてしまったらしい。 むぃ。 @mmm__115
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。国外追放に憧れて悪役令嬢のフリをしていたのに冷酷非情な公爵様に好かれてしまったらしい。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます