第2話 ウルトラスーパースペ(長いので略)美少女です☆
死にたくなければついてこい、とのことだったので彼女の後をついていく。
コンビニの自動ドアは開きかけていたが、そこに少女が杖を介し魔法らしきものを発動させる。
「今、時間停止させてる状態だからドアも開かねーんだよな」
「てことは、これは空間と空間を繋げてる感じになるのか?」
「鋭いね! さすがゲーマー!」
「いや、それほどのゲーマーじゃねえよ。何かサブスクで適当に流したアニメで見た」
「なるほど。確かによくある! 〇こでも〇アみたいなもんか!? って、驚かないんだな」
「〇こでも〇アって……」
「ちなみにオレは原作派」
そんな下らないことを言い合いながら、修平は促されるがままに空間を入る。
入った先にあったのは——……
「よし。座標確認完了。遅かったな、竜悟——って、おお? たなかん? お前、今日定時上がりできるから夜ふかししてゲームするんじゃなかったのか!?」
「あ、ども。って、ここもしかして、きんちゃんの家!?」
「おうよ。んで、お前をつれてきたのは俺の息子」
「あ、そういえば子供いるって言ってたもんな。確か、大学生なんだよな」
「そう。見ての通り俺に似ずに母親似でよ……って、お前、ツッコむとこ他にあんじゃね?」
時間は既に夕方とはいえ、煙草をふかしながらシャツとパンツ姿でパソコンをいじっている中年太りしたおっさんに言われたくはないが、ようやく気付く。
「あ、お前……っていうか、キミは男性?」
「ついてるぜ! 身長は低いが自身アリ!」
「いや、自慢すんなよ」
「まあ、それよりも。田中さん―—いや、しゅーへーさん」
「修平な」
「あだ名だよ。あだ名」
「なるほど」
「納得してくれたんなら、俺らもうダチ友な。つーわけで、俺たちと一緒に異世界行かない?」
イミフすぎやろ。
■
畳敷きの部屋に所狭しと並べられたデスクトップパソコンとサブとして置いてあるノートパソコンに地図らしき画像が表示されていた。
その中で最も目を引いたのは、赤く光る点。
「これが発生したバグ。俺たちと異なる世界において発生するのは、まあ特にどうということもないが——転生者がもたらしたバグはこの世界に影響する」
「影響?」
唐突すぎる申し出に驚きはしたが、その辺を含めて説明してくれるということで修平は現在ゲーム仲間である『きんちゃん』こと山田金治から話を聞いていた。
「そこのバカが時間停止させたのは知ってるよな」
「うーん……俺は無我夢中であの親子を死なせちゃいけないって気がしたんだよ。そしたら痛みとか衝撃とか何もないからおかしいなと思って目を開けたら、俺以外の全てが停止してたって感じかな」
感じたことを素直に話すと、おおと感心したように頷く金治に息子である竜悟はむっとしていたが、すぐに調子よく無い胸を張る。
「そうそう。しゅーへーさんが助かったのはこのオレ、マジパーフェクトヒロインでスーパースペシャルハイパー美少女魔法使いのみるかちゃんの時間停止魔法のおかげなんだよん☆」
「……あ? みるか? んん? みるかちゃんって————あ、ゲーム配信者の」
みるかちゃん、といえば三年前から活動し始めたゲーム配信者だ。主にプレイしているゲームはFPSやインディーズ系。名作からクソゲーまでマシンガントークしながら実況している美少女の姿は瞬く間に登録者十万人を超えた。
特に伝説と言われているのが、ストーリーも滅茶苦茶手抜きでツッコミ所が多い上にクリアするのが難しいと言われている『フィッシングプロジェクト』という低価格のゲーム。
ソフト自体は二十五年前に販売され、当時のCG技術こそ未発達だったものの、それなりに出来の良いソフトが販売されてた中、このソフトは酷かった。
説明書に描かれているキャラとポリゴン処理されたキャラの顔が一致しないのは当然として、動きのカクつき具合に加え、声優の演技がとにかく酷い。棒読みは当然として、おかしなイントネーションで喋るキャラもいて今でもネットでネタ扱いされているぐらいだ。
しかし、このソフトをプレイする配信者はそれほどいなかった中、新星の如く現れた美少女配信者がクリアするまでプレイするという耐久配信を行った。
美少女とは思えない暴言を連発しつつもツッコむべき所をしっかりツッコみつつ、次から次へと流れてくるコメントに返答し続けるという離れ業をやってのけながらの長時間配信。本来であれば二十時間はかかるとリスナーから忠告されていたが、それをわずか九時間三十七分でクリアしてみせるという腕前を見せつけた。
修平も途中からではあったが、SNSにトレンド入りしていたこともあってかリアルタイムで視聴していた一人である。
「そうそう。今日は配信する時みたいに女装してねーけど」
「ああ、女装してたのか……つか、今も普通に小さくて可愛い女の子だなー、と思ってた」
「マジ? まあ、確かに顔は超絶美形だからな。んでもって、髪は今ワケあって伸ばしてし……配信する時は基本ドピンクのウィッグ被ってブリッブリのアイドル衣装着るからな」
「衣装って自作してんのか?」
「いや、彼女のお手製。んでもって、今度カットモデルやるから今髪伸ばし中」
「へぇー……って、話を元に戻すと——異世界で発生したバグはあの事故みたいな形で現実世界に影響するってことでおk?」
キーボードをカタカタと操作しながら「そうだ」と金治が言い、壁に立てかけられているモニターにヨーロッパ辺りで見かけそうな荘厳な城が映される。
「異世界って……何ここ、海外?」
「今から内部を映そうかと思うんだが……お前ら、エロ耐性はあるよな?」
「……あー……耐性っつーか、まあ……ゲームの合間に電子で買って読むぐらいかな」
「俺は彼女いるし、やることもやってるから問題ない」
見た目に似合わず清々しい漢なんだな、と修平は竜悟に対する印象が変わる。ある意味で良い方に。
「……じゃあ、一応これが今回のバグだ」
肌色多めの映像が映し出される。
異世界デバッガーズ まおんじゅ @maonzyu
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