過ぎ去りし休日を求めて
「昨日の話は、無かったことにして頂きたい」
その言葉はウイルスのように学び舎の部屋に広がり、人の心を壊し、38人もの人々を裏切りと在宅へと駆り立てた。
そして駅前にはクラス全員に裏切られた男女が残された。
過ぎ去りし休日はもう、戻らぬ。
「ねえ、せっかくだからこのまま2人でお出かけしない?」
百合根の言葉から、世界はまた変わろうとしている。
なのだが、言われた側の公輝は そのまんま固まっていた。
んなこと言われても、行きたいところなんて思いつかないのである。このまま帰宅するつもりだったし、自分が行ってみたい場所ならなんとか片手の数くらいは思いつく、ただし、「同い年の女子を引かせない・キモがらせない」という条件がつくともう絶望的だ。いや、ニンゲンのメスの「キモい」とは鳴き声であり、犬のワンや猫のニャア、アメリカニンゲンのF語と同じカテゴリ。つまり思い切り趣味に走るべきだ。出かけたいと言い出したのはそもそも
なんてのは自分で考えてて鳴き声が「キモい」になりそうなのでやはりダメだ。ニンゲンのオスなのに。
そういえばいつも当たり前のように女子に声をかけたりかけられたりしていた御前崎をいつも軽い尻から先に生まれた尻太郎呼ばわりしていたが、彼はむしろ当直の消防士であったのだ。彼らは火災が燃え上がればすぐに駆けつける、御前崎も女子が燃え上がればすぐに出動する。それを当たり前にやるにはそれなり以上の準備が必要だっあのだ
「あのさ。わたし、行きたいところがあるんだ」
…時間切れだ。行き先は決まっている、山か沼である。なぜかって?俺みたいに気の利かない男をその場で殺害。運ぶ手間全カットで死体を捨てるにはベ…
1時間少し後…
波が立つ巨大な造波プール、プラスチックの木や花に彩られた流れるプール、そしてウォータースライダー。
悠崎が行きたかったのは南欧か地中海沿岸をイメージした屋内レジャープールであった。
そして
「俺にはわからないままだ。プールに来てプールに入ったら、それからどのようにして楽しめばいいのか? 入水したら次にやることが見当たらない」
仰向けの状態で後ろ手に砂浜に手を付き、体を支えて顔だけ出してクラゲのようにプカプカと浮きながらこぼすのは公輝である。
「でしょ?私も海は入った瞬間は好きなんだよ、けどこうやって入った瞬間飽きちゃって、あとは手持ち無沙汰なのだよ」
2人の格好はこのプールのレンタル水着、それもジェンダーレスなやつである。100年の海水浴で人々が着ていたような歴史的な一着であり、もう服同然である。
「ちょっと待て、百合根お前は海に行ったことがあると言ったな聞き捨てならないな
なぜお前があんなリア充地獄に」
「別の学校の友達と海に行っただけ。海ってのは全身を塩水につけた後に、シャワーと着替える場所が足りなくて全身に塩をまぶしたまま帰路につかなければならないからね、そんなにいいもんじゃないよ?」
「そそ、それならなんでプールなんぞにわざわざ来ようと思ったんだ?」
「物事に挑戦するのは大嫌いというネガティブな結果を得たり「んなこと金積まれたって二度とやらねえ」物事を見つけるという重要な学びを手に入れるためには必要なことだから、だねえ」
「みんなは向いてないことに時間を費やして無駄にすることを、「殺されてしまうとは情けない」レベルの同罪に捉えているからなかなか理解されないんだけどさ」
友達が欲しい?ならば相手を水に漬けるんだ。プールでも海でもいい。
そうするとお互い水で体力を奪われて判断力も思考力もズブズブよ、あとはチェックメイトさ‼︎
そう語っていたのは湯田だった。そして百合根は水に浸かっているのに全く思考力を失っていない。学校絡みの時とは喋り方や語り口まで違うし、案外とんでもない女傑なのかもしれない。
「そろそろ帰ろっか」
「待て!百合根は2,000円という大金を払い、わざわざ着替えたという手間を造波プール一つで全て損切りするのか!経営者か!!」
ちなみに、二人の次のお出かけ先は模索中だが、プールはしばらく除外されそうだ。
デイブレイク・アフター 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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