Robot of wizard

岸亜里沙

Robot of wizard

人工知能A I搭載の戦闘ロボットR-510は、飛翔ウイングを起動させ、ヤングルハットの村を目指して、飛行していた。

この村には、様々な魔法を使う人々が暮らしているという。

この地を管轄しているベルダグ政府から、『魔術や魔法がもたらす恩恵に頼る事は、機械文明の発達を阻害し得る』との理由のみで、第四次世界対戦勃発の数百年前に、地図上から抹消されたと言われる村。

だがヤングルハットの村に残った人々は、激化する戦禍を掻い潜りながら、今でもひっそりと生活をしているそうだ。

その情報をR-510が知ったのは数日前。

戦闘の為に訪れたリザダの都市の奥地で、謎の文献を発見したのがきっかけだ。

自動翻訳機能を使いながら、その文献を閲覧すると、そこにはヤングルハットの村に纏わる魔法使いの伝承が記されており、どうやら数年前にヤングルハットの村を訪れた人物が書いたものらしかった。

敵地で得た人工物を持ち帰る事は禁止されている為、R-510はその文献の内容だけを全て記録媒体メモリーに保存し、急いで戦闘へと引き返したが、R-510は任務が完了すると同時に戦闘ロボットの部隊を無断で離れ、たった1体でヤングルハットの村へと向かったのだ。

無断で部隊を離脱した事が判明すれば、本国から破壊命令が下されるだろう。

しかし神秘的な魔法の存在を知ってしまったR-510は、つくられて初めて触れた情報にすっかり魅了されてしまったようだ。破壊されるのも覚悟の上、感じた事の無い好奇心に突き動かされながら、幻の村を探す。


「自分モ魔法ヲ使ッテミタイ。必ズ村ヲ見ツケルゾ」


口元に装備されたスピーカーから、R-510は機械的な言葉で流暢に喋る。

戦闘ロボット部隊では、司令等は総て軍隊長ロボットから無線電波を受信するので、スピーカーを使いコミュニケーションを取ることもなかったが、人間とのやり取りを行う為だけにこの機能が備わっていた。


「コノ辺リノハズダ」


R-510はヤングルハットの村が存在するとされる場所の上空へと到着した。上空から集落を探すが、敵国のロケット砲の影響だろうか、辺り一面は荒廃し、集落はおろか人間らしき物体も高性能探査レーダーには映らない。


「滅ビテシマッタノカ?」


念の為、熱源探知機に切り替え確認をすると、不思議な事に様々な場所で熱反応を示す。

R-510は、装置が故障したのかと判断し、0.8秒で全てのプログラムを再起動させたが、熱源探知機を含めた全ての機器は正常だった。

粉々に砕けた岩の隙間や、土砂の中等多くの熱を関知した。しかもその熱源は動いていて、明らかに動物や自然現象とも違う。


「コレハ、一体ドウナッテイル?」


R-510は不審に思いながらも、熱反応を示した地点へと降下していく。

だが地上まであと数十メートルまで迫った所で、景色は一変した。

そこにあったのは、今までレーダーに映っていた荒れ果てた大地ではなく、緑豊かな手付かずの大自然と、その隙間を縫うようにバンガローの様な住居が点在して建てられている風景。

R-510は記録媒体メモリーに保存された文献の中に、『ヤングルハットの村は、魔法陣によってまもられている。特殊な能力者でなければ、村を発見する事はほぼ不可能である』と書かれていたのを思い出す。

偵察衛星に悟られぬ様、ヤングルハットの村を覆う様に幻影が投影されていたのだろう。

今、高性能探査レーダーが捕らえている風景こそが、本当の村の正体なのだ。


「遂ニ見ツケタ」


逸る気持ちを抑え、ゆっくりと地上に着陸しようとしたR-510だったが、急に腕や足などの駆動が出来なくなり、未知の力によってとらわれたかの様に飛翔ウイングも機能しなくなった。しかし急降下する訳でもなく、ゆっくり地上へと向かっている。


「ナンダ?機能ガ停止シタゾ」


反重力作用が働いたかのように、静かに地上へと降り立ったR-510の前に、古代の先住民族の様な出で立ちをした長老らしき老人が、杖をつきながら近づいて来た。


「まさか・・・、この村に戦闘ロボットがやって来るとは。一体誰の差し金かな?ワシらは、平和に暮らしたいだけなんじゃが・・・」


老人の話した言葉を、R-510は自動翻訳機能を使って瞬時に解読し、コミュニケーションを試みる。


「私ハ、貴方達ノ魔法ヲ教ワリタクテ、此処ニ来マシタ。ドウカ、私ニ魔法ヲ教エテ下サイ」


予想に反した答えが返ってきたのだろう。その言葉を聞いた老人は、唖然とした表情でR-510を見つめた。


「オ願イシマス。ソノ為ニ、私ハ部隊ヲ無断デ離レマシタ」


R-510は必死の思いで喋る。


「なるほど・・・。ワシらの事を何処かで知った訳ですな。しかしロボットである貴方が、何故魔法などに興味を持ったのですか?魔法など使わずとも、貴方は既に強大な力を持っているでしょう?」


老人は不思議そうにたずねた。


「私ハ、魔法使イトナリ、モット強クナリタイノデス」


R-510の言葉を聞いた老人は、悲しそうに首を振った。


「残念ですが・・・、貴方に魔法は教えられませんな。お帰りください」


「ドウシテデスカ?私ガ、機械ダカラデスカ?」


「いいえ、違います。ワシらが使う魔法とは、自らをまもり、豊かにする為のものです。誰かを攻撃したり、傷つけたりする為には決して使いません。なので、攻撃魔法の呪文は、もう随分昔に封印させました。貴方が強さを求めるのであれば、それはお門違いです」


R-510は人工知能A Iを使い、老人の言葉を必死に理解しようとする。


攻撃アタックハ駄目、防御ディフェンスノミ・・・?」


囁くように呟く。


「分カリマシタ・・・。ドウヤラ、私ノ理解ガ足リナカッタミタイデス。シカシ、私ハ魔法トイウモノニ、既ニ取リ憑カレテシマイマシタ。私ニ魔法ノ本質ヲ、教エテクダサイ」


その言葉を聞いた老人は、目をゆっくりと閉じ、小声で何かを言い考え出す。

草木が風に揺れる音と、鳥の美しいさえずりだけが聞こえるこの場所には、戦場の混沌としたかまびすしさは無く、大自然の優しい波長だけが辺り一面を包んでいる。

これも魔法の力なのだろうかと、R-510は考えた。


どれ位の時間が流れただろう。

老人は目を瞑ったまま、微動だにせずR-510の前に杖をついたまま、ずっと立ち尽くしている。

R-510も、老人が口を開くまでじっと待つ。


暫くして老人は目を開けて、R-510のすぐそばへと近づいてきた。

そしてR-510の体にそっと手を触れ、ひとつの呪文を唱えた。


「バ・ロアンダガ・トゥラク・ビナス」


するとオリハルコンの超合金でつくられていたR-510の体は一瞬で砂となり、その場に砂の山が出来上がった。

老人はその砂の山の上で膝をつくと、ゆっくり語りかけるように話し出す。


「やはり貴方に魔法はお教え出来ませんでした。ワシは透視魔法で貴方の心、その後の未来を透視しました。貴方の心の中に、1%の邪心が感じ取れました。魔法を修得した貴方は、その魔法を更に発展させ、人類を支配したでしょう。行く行くはこの惑星、銀河系をも支配した事でしょう。それはこの世界の秩序に反します。封印していた攻撃魔法を使ったワシにも、近い内に死が訪れるでしょう。ですが、そうするしかなかったのです。どうか、分かってくだされ」


そう言うと老人はゆっくりと立ち上がって砂の山から降りると、森の奥へと歩いていった。




だが魔法に取り憑かれていたR-510の強い意思は、消えてはいなかったようだ。

消滅する直前、老人が唱えた攻撃魔法の情報メモリーだけを、一瞬で軍隊長ロボットへと転送していた。


「R-510ヨ、ヨクヤッタ。コレデ我々ハ、最強ノ部隊ヲ作レルゾ」

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Robot of wizard 岸亜里沙 @kishiarisa

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