君影草

まろんけーき。

第1話

 私の好きな人は、

 私のよく知る他の女の名で

 私の事を呼ぶ。



 いつもの場所はやはり落ち着く。

 この場所からはサッカー部の練習している様子がよく見える私のお気に入りの場所。


(あ、紫乃しの。)

 私は、心の中でそう呟いた。


 紫乃は私の双子の姉である。


 一卵性双生児だけあって容姿こそは瓜二つと言っても過言では無い程に非常に似ているが、中身は正反対で、昔から対照的なモノを月と太陽に例える事があるが、まさしく月が物静かで地味な私 鈴奈すずなで、周りに人が集まる明るい人気者の太陽が姉の紫乃である。


 その姉、紫乃が笑いかけるその先に居たのは...私のお気に入りのこの場所で前々から密かに好意を寄せ、見ていた藤崎先輩だった。そして、紫乃の右手は先輩の左手へと繋がれていた。


 私は一応美術部に所属している。〝一応〟と言う枕詞を付ける 所以ゆえんは美術部の部員数が4人しかいない所にもあるし、各々が各自好きな時に好きな場所で活動している為、部員とほとんど顔をあわせる事が無いからである。だから、部である意味が殆ど無いと言っても過言では無いが、所属する利点は顧問である早川先生が、コンクールやコンテストの情報を集め、応募の煩雑はんざつな手続きを代わりにやってくれる所にある。



 私がこの場所で一人活動し始めたのは、初夏の頃だった。

 その頃のこの場所のすみにはスズランが一輪咲いていた。


 小さな白い花を沢山たくさん付けこうべれるその凜として品のあるその出で立ちが美しく好きなのは勿論のこと、スズランは私の誕生花であり、鈴奈という名前の由来でもある為、特段 昔から私にとって愛着のある花であった。

 だから、と言ってはなんだが、そのスズランの花に吸い寄せられるかのように私は放課後雨が降らない限り毎日その場所に行き、そこから見える風景をスケッチし、時には色を重ねた。

 そこからは、偶々サッカー部の練習している姿が見えた。毎日決まった基礎練習の様な事から始まり、ボールを蹴る姿や鳴り響くホイッスルの音、チームメイトとのやり取り。彼らが何を話しているのか迄は分からないにしても、ほぼ毎日彼らの姿を見ている中で、だんだんと彼らについて詳しくなっていった。














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君影草 まろんけーき。 @maron_cake

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