ドラマーIN US#7サニーサイド4

矢野アヤ

第4話 陽だまり

 「馬鹿よ、本当に馬鹿・・・」。 

 前方に視線を向け、息を詰めて話す。預けていた家で、不注意から置いてあった薬を飲んでライリーは亡くなったと言う。

 でも、ジェニファーは怒れないのだ。怒るとそれは、自分の息子にも向けることになる。息子Rから違法麻薬を購入し亡くなった中学生の死が、事故か犯罪か、判決はまだ下りていない。だから、ライリーの事も事故だと言わなければいけない。息子のことも事故だと思うためには。誰かを怒り、罵れた方がどんなにマシだろう。

 息子Rは娘に会うことも、お葬式に参加することもできなかった。地元の警察官だった別居中のご主人は、事件後退職し、人目を避けるように過ごされている。

 Rから違法薬物を購入し亡くなった中学生とそのご家族を思う、加害者側としての痛みや負い目もあるだろう。親としての悔いや恥、自責の念。そんな中での唯一の希望だったライリーの死。それもまた薬が絡んでいる。幾重にも重なる痛みと悲しみ、重荷、そしてどこにも向けることが許されない怒り。これほどのものを抱えて、私は生きていけるだろうか。目の前で愛する家庭が壊れていく様を、なす術もなくただ見続けるしかない。その暗闇を前に考えに、考えた。

 ふと、「サニー・サイドを見る」と言うフレーズを思い出した。陽の当たる方を向く、物事の良い側面を見るという意味に使われる言葉だ。前を向いて、希望を持って、が難しくても、陽だまりを見ることならできるかも。そう思った瞬間に一筋の光がスッと射し込んで、フワッと軽くなるような不思議な感覚がした。

 ジェニファーも、陽だまりなら見つけられるはず。陽だまりで暖まって、そしたらいつかまた必ず元気を取り戻す。そして、またステージに立ちドラムを叩く。ぼやぼやしていたら置いていかれるくらいに、そう思えた。

 2020年、アメリカのホームレスは57万人を数える。2021年には166万人の不法移民が拘束されたが、それでもバイデン政権は国境の壁建設を中止し、移民受け入れ体制に舵を切った。23年には不法入国者が1日一万人を越える日が続き、メキシコとの国境付近では、それに比例するように麻薬や犯罪が増加している。勿論、Rの問題と直結するものではないが。

 様々な混沌を飲み込みながらも前進を続けるアメリカ。新天地を目指し海を渡ってきた人達のD N Aは、この国に根を張り、今も礎となっている。この凄まじいエネルギーから学びながらも、サニーサイドを見続けていこうと思う。ジェニファーの復活を報告できる時を楽しみにしながら。

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