第12話 慈悲②
「今のってこの前の魔法使いが帰った時のと同じかな」
「そう見えるわねぇ。アーロちゃんも元気な様子だったし、これにて約束達成でいいんじゃないかなぁ」
バニラはえらいねと言い僕の頭を撫でてくれる。
「そっか。よかった。」
「私は少し行くところがあるからその娘を送っていってあげなさいな」
肩甲骨の辺りからぱっくりと肉が割れ、血が滴り、鳥のような形状の黒い羽となって固まっていく。
「コウモリみたいな羽じゃないんだね」
「コウモリは羽根が落ちないからねぇ」
「ふーん?」
「おやすみ。気をつけて帰るんだよ」
「うんバニラもね」
轟音。地面が割れるほどの跳躍をし、バニラは去っていった。
(羽、意味あったか?まあ、かっこよかったけど)
「さて」
未来を起こしに行こうと振り向くと混乱した顔の未来と目が合う。
「魔法使いは?」
「もう帰ったよ。たーぶん」
「そう」
張り詰めていた雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。
「助けてくれてありがとう。随分な慈悲を持っているのね、あなたもさっきの人も」
「慈悲?」
「さっき私を治してくれたでしょ」
訝しんでこちらをのぞき込む様子に少し不可解さを覚えながらも応えた。
「別に慈悲で助けたわけじゃないけど。普通にクラスメイトが怪我してて、治せるなら治さない?」
どうも話がかみあってる気がしない
「慈悲ってそういう訳じゃなくて、あなたのさっきの能力のことよ」
さっぱり分からない。慈悲っていう言葉の使い方あってるのか?
「もしかして最近慈悲が目覚めたの?」
「えっと、いまいち話が分からなくて、慈悲ってなんなの?」
「そっか、そこからなのね」
「慈悲っていうのは私たち人間が魔法使い達に対抗するために神様から与えられた力。早いスピードで移動できたりものを浮かせたりね。まあ超能力みたいなものよ」
「へぇ」
吸血鬼の次は特殊能力か、僕が知らなかっただけでいろんなものがあったんだな。にわかに信じがたいけど魔法があって吸血鬼もいるんだから今さらかな。
「じゃあさっきすごく早く移動してたのがそれってこと?」
「そう。私の慈悲
「なんでそんな、なんだっけ?慈悲を持ってるの?他に持ってる人って今まであったことも聞いたこともないんだけど」
「隠してるからね皆、下手に混乱が起きないように」
「他にもいるんだ。慈悲を持ってる人」
「ええ」というかそんな事も知らずに魔法使いを軽くあしらってたのが信じられないんだけどな。私としては。
今のところ友好的なら一旦一緒に行動して見極めるが無難かなー。田無くんはともかくさっきの女の人は別格に強そうだったし。
「それでさ田無くん、君の慈悲を見込んで聞いてみたいんだけど」
僕にとってはテレビの中だけの存在で、怖さが漠然としか伝わってなかった魔法使い。火の海になっている大阪を見たときはこんなものに関わるものかと思っていた。しかしながら、1週間の間に二度もこんな誘いを受けようとは。
「私たちと一緒に魔法使いを倒さない?」
「ははっ」
バニラごめん。まだ今日帰れないや。ドキドキする気持ちが抑えられない。
「いいね、僕も混ぜてよ。魔女を憎む気持ちは同じだからね」
「よかった。近々1人、ずっと追ってた魔法使いを倒そうっていう動きがあってね、なるべく生存率を上げるために治癒系の慈悲を持ってる人が欲しかったのよ」
「ああ、なるほど。それでお声がかかったのか」
我が事ながら治癒系の能力の需要ってやっぱり大きいのかな。
などと考えていると人っ子一人いない夜の住宅街にひときわ大きな声が耳をつんざく。
「みらい~~~!」
栗毛の髪の隙間から大きな目を覗かせながらこっちに向かって走ってくる人影を見てあきれる未来の様子を見ると知り合いのようだ。
ていうか同じ制服だ。
「大丈夫?誰こいつ?」
こいつとはなんだこいつとは
「玲くん、うるさい」
めんどくさそうに未来が一蹴する。
「なに?魔法使いに連れ去られそうになってた子とか?」
背後から突如降ってきた知らない男の声に驚愕しつい距離をとる。
え?どこから来た?気配とか全くなかったんだけど
距離をとり始めて相手を認識できた。目元までかぶるほど長い白髪を携えた敬人や未来よりも年上の男性がそこにはいた。
背は高そうであるが、猫背のせいでそうは見えない。少し大きめのシャツに古そうな半ズボンを履いている。
「新人をビビらせないでください万さん」
満足げに子供のような笑顔をこちらに向ける大柄な年上(にみえる)男に未来が冷静に突っ込む。
「新人?ってどうゆうことだよ未来ぃ?」
玲君と呼ばれたイケメンが焦ったような顔でこちらを見る。
「言葉通りの意味よ。この田無敬人くんが私たちのチームに入るわ。玲君より先輩なんだから敬いなさいね」
「えー」
そんなふてくされた様子でこっち見られても。僕もよく状況理解してないんだけど。
「田無くん。まずは紹介するわね。そこのあわあわしたイケメンが
「あわあわしたイケメン!?」
「もっさりしたちゃらんぽらんが
「どうも、もっさりしたちゃらんぽらんです」
玲は自分の評価に不満な様子だが万丈はむしろ楽しんでいるように見える。
「今まではこの三人でチームを組んでたの。そこに田無くんに参加してもらうわ」
あ、
「田無敬人です。一里塚高校2年慈悲で傷の治療ができますので、役には立てるかとおもいます。これからよろしく」
「ういういしーね。一応僕が一番年上だからさ、なにかわかんないことあったらバンバン聞いてよ」
「あ、じゃあ早速一つ」挙手をして質問を投げる。「今後どういうふうに魔法使いを倒すんですか?」
玲と万丈がぽかんという顔をこちらに向ける。
「お前それわからずに入ったのかよ」玲があきれた様子で言う。
「基本的にオレらが倒すのは魔物。魔物を叩いて魔法使いの手がかりを探ろうってこと」
「魔物?」
「まさかじゃないけど魔物も知らないなんてことないよな」
「知らないかな」
玲がオーバーなリアクションで頭を抱える。
「魔物っていうのは魔法使いによって作られた動物のことだよ。人をさらうこともあるから僕らがそれを壊してるのさ」
「万さん、そいつダメだろ。なんも知らないぜ魔法使いのこと。未来もいいのかよこんなん入れちゃって」
「田無くんは強いのよ。さっき私魔法使いにものの見事に切られちゃったんだけど、治してくれたし。」
「え」
それに私たちは知らない魔法使いのこともなにか知ってそうだしね
「だからあんたら仲良く」
言い終わるより早く玲が慌てた様子で口をはさむ
「いやいやいやいや、魔法使いに斬られたってなんだよ!」
「あー僕が個人的に追ってた魔法使いと鉢合わせしちゃってね治してあげたんだ」
「え!?いや、全部説明してくれ!追いつけなくなった」
少し事実を伏せながら説明をした。バニラのことは自分より強い慈悲を持った魔法使い狩りといい、最近慈悲に目覚めた僕が指導を受けているということにした。
「魔法使い退けるとかめちゃくちゃすごいじゃんバニラさん。いっしょには戦えないの?」
「今どこにいるかわからないから一緒に戦ってくれるかどうかはわからないかな。それよりさ、追ってる魔法使いがいるって言ってなかった?」
玲と万丈の顔が険しくなる。
「再来週にね僕らの組織を挙げて魔法使いを倒しに行くんだ。出現場所を予測できる慈悲を持ってる子がいてね準備万端で迎え撃とうっていう算段さ」
万丈がさっきまでのちゃらけたしゃべり方ではなく、ゆっくりと伝えてくれた。
「再来週私たちが相手するのは矢印の魔法使い。それまでの間、田無くんには私たちと魔物狩りをしてもらうわ」
期待が高まる。自然に自分の口角が上がっていくのがわかる。ああ、楽しいな
同刻 魔法界
「よう!お疲れ、首尾はどうよ」
老いてなおそれを感じさせない肉体とその態度からは不遜な態度が満ち溢れている男が尋ねる
「いい感じだよ。魔物送っていい感じにえさもまいた。もうじき回収かな。一人じゃ大変なんだけどレムも来てくれないかな」
心底めんどくさそうな様子がにじみでている。
「ふっふっふ。行かないさ。老兵は忙しいのさ」
「まあ、期待してなかったよ。はぁ、まあ人間集めれれば懐もぬくむし、せいぜいがんばるかな」
吸血鬼の眷属 ボナンザ ソバイユ @pipineeden
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