ある日の出来事の話なんだけど、俺が妹から告白されたんだが?
譲羽唯月
第1話 その想いは突然やって来た⁉
「ねえ、付き合ってほしいんだけど」
「え?」
その時は、突然やって来た。
金曜日の夜。
夕食を終えてから三〇分ほど経過した八時頃。
自宅内のリビング前の廊下で、ショートヘアが似合う小柄な妹――
高校一年生の妹は、兄である
学校内でも入学当初からモテている妹。
そんな妹から、衝撃的なセリフを貰ったのである。
高校生になってからは殆ど会話する事もなく。だからこそ、急な展開に戸惑っていた。
「だから……付き合ってほしいってこと」
「……付き合うって、買い物とか?」
作馬は首を傾げる。
「ち、違うから。そういう事じゃないし」
妹は作馬から視線を逸らし、口元を震わせていた。
「どういう意味で?」
「わからないの? つ、付き合っていうのは、男女的な意味でってこと」
天音は強気な口調で、声を出す。
「えっと、確認のために聞くけど、俺ら兄妹だよな?」
「そ、そうよ。で、でも」
「いや、流石にそれは無理だろ。何かの冗談とか?」
作馬は動揺しながらも、冷静さを維持しながら断ることにした。
決して妹と関わりたくないとかではなく、血の繋がった者同士が付き合うのは、ありえないと思う。
だから、了承する事はしない。
その考えは変わらなかった。
そもそも、そういう間柄になるのは禁止なのだから。
「でも、べ、別にさ。嫌ならいいんだけどさ。なんていうかさ……だったら、明日、少しでも時間ある? 何もないなら一緒に」
天音がグッと距離を縮めてきて、作馬の瞳を気まずそうに見ながら言う。
けれど、すぐに頬を紅潮させ、距離を取る。
「明日は、な、何もないけど」
そこまで重要な用事はない。
今週の休日は、一人で過ごそうと予定を立てていたからだ。
「じゃあ、いいってこと?」
「えっと……さっきの発言は本気で言っているのか?」
作馬は確認のために問う。
「そ、それは、まあ……嫌っていうなら、別に気にしなくてもいいし。明日も無理なら、断ってもいいんだけどね」
天音はぶっきら棒な言い方で頬を軽く膨らませ、つまらなさげに呟いていた。
急に決めることになっても、なんと返答すべきなのか、自分でもわからない。
あとで返事を返すと言い、作馬はその場を回避する事にした。
「さっきのはなんだったんだ?」
数分前の事を思い出しながら、作馬は風呂場の湯船に浸かりながら考え込んでいた。
「まあ、何かの気のせいというか。天音も間違って話したんだろうな。クラスメイトからの罰ゲームとかかな?」
いきなり告白された時は、正直驚いた。
異性から想いを告げられるのは、人生で初めてだと思う。
今振り返っても、そんな浮いた話などなく、多分本当に人生初なのだと自己認識した。
まさか、最初の、その相手が実の天音とは、とんでもないシチュエーションである。
「付き合うとかはないか……根本的に難しいしな」
天音もどういう心境で告げてきたのかは定かではない。
本気で告白してきたのなら、なぜという思いが作馬の中で強くなる。
追求しようにも、本心を聞くのも怖かった。
兄妹同士が付き合うのは、二次元だけの話であり、現実的じゃありえないと思う。
けれど、先ほどの天音の悲し気な顔が、なかなか忘れられなかった。
その事を思い出す度に、天音から告白されたことに関して、今も心臓の鼓動が高鳴る。
変な気分だった。
昔、天音とは比較的、仲が良かった方だと思う。
今のように距離を感じ間柄ではなく、一緒にゲームをしたり、休日を一緒に過ごしたりと、共に時間を過ごしてきたのだ。
好きと言えば、好きかもしれない。
でも、この好きという感情は、天音としてなのか、女の子としてなのか、作馬自身も悩んでいた。
「やっぱり、断った方がいいよな。兄天音同士で、とかさ」
まだ天音には、明日一緒に遊ぶかどうかについては返答していなかった。
風呂から上がってから伝えようとは思う。
「そろそろ、体でも洗ってから風呂から上がるか」
そう呟いて、作馬は湯船から出る。
その時だった。
風呂場の扉が開いたのは――
「え?」
そこには紫色のスクール水着を身に纏う天音が佇んでいた。
「な、なんで⁉」
「ちょっと体を洗ってあげようと思って」
「え、い、いいよ。それより、早く出て行ってくれ」
作馬は咄嗟に追い出そうとする。
が、今はほぼ全裸状態であり、タオルで下半身は隠しているものの、すぐに対応できていなかった。
「い、いいじゃん」
「よくないから……」
今日は金曜日。
両親は仕事の都合上、明日帰ってくるらしい。
両親が不在だったとしても、兄妹同士で変な関係性にはなってはいけないと思う。
作馬の心臓の高鳴りが抑えきれない今、強引な言い方で妹を風呂場から押し出す事は難しかった。
「でも、少し話したいこともあるから」
妹ら強引に押し切られ、作馬はしょうがなく受け入れることになった。
天音の方は全裸というわけではなく、水着を着用しているのだ。
作馬が背中を向けたままであれば、互いに何も問題は生じないと思う。
超えてはいけないラインを維持したまま、天音から背中を洗ってもらうことにした。
「ここら辺がいい?」
「そ、そうだな。そこらへんだな」
「痒い所は?」
「……背中らへん」
「ここ?」
「うん……」
作馬は緊張しながら、言葉を切り返す。
背後にいる天音も緊張しているようで、声が裏返ったりしていた。
「ねえ……明日話そうと思っていたんだけどね。今日話そうかなって思っていたことがあって」
「ど、どんな事?」
「それは、今後の事とか……」
天音の声から真剣さを感じられた。
冷やかしとかではない。
作馬の背を洗っているタオルを小刻みに震わせながらも、自身の想いを伝えようとしてきている感じだ。
作馬は天音との距離をさらに強く感じ、唾を呑む。
やはり、天音の事を意識しているのだと、そこで作馬は気づき始めていた。
天音から背中を洗ってもらった後、大切な話をするために、お風呂から上がる。
それから二人は脱衣所で服を着て、リビングへと向かうことになった。
「ねえ、これを見てほしんだけど」
天音はとあるアルバムを手にしていた。
それを、ソファ前のテーブル上で広げていたのだ。
「そのアルバムって、俺らの?」
「そうだよ。ここのページにね」
二人はソファに座る。
天音はアルバムをめくっていく。
その特定のページには、四つ折りにされた一枚のA4用紙が挟まってあった。
「これを読んでみて」
天音から手渡され、その紙を見開いてみる。
母親の文章で、本当の兄妹ではないという趣旨の内容が書き記されてあったのだ。
「兄妹ではない? なんで? これって俺らの事か?」
「そうみたい」
「え? なんでわかるんだ?」
「それは、先週ね。夜中にこっそりと起きた時に、リビングで会話していたお父さんとお母さんの話を聞いてしまったの。そこで、今後、どうするかって話を、このアルバムを見て話していたの。多分、気にしてるんだと思う。血の繋がりのない事を、いつ話そうかって悩んでいるようだったし」
「そ、そうなのか……」
説明を受けたものの、天音とは血が繋がっていない真実を知り、まだ受け入れられずにいた。
「何かの嘘って事は?」
「ないと思うけど」
「直接は聞いたのか?」
「それはまだだけど」
「だったら、どうかわからない気もするけど」
「でも、私は本当に、ちゃんと聞いたんだから」
天音は全力で声に出す。
作馬は一瞬、無言になった後、一人で考え込み、目をキョロキョロとさせていた。
もし、これが本当なら凄いことになる。
作馬はもう一度、その用紙を見る。
詳しく読んでみると、天音は母親側の友人の子供だったらしい。
その友人が不慮の事故で亡くなってしまったがために、この家で預かることになったようだ。
「本当の兄妹じゃないなら、付き合ってもいいと思っているの。だから、私が思いっきり、告白したんだからね!」
天音の瞳を見る限り、本気だった。
嘘をつきたくて、話している感じではない。
「でも、付き合うのは無しな」
「私のこと、好きじゃないの?」
「そうじゃないけど、本当に付き合ってしまったら。後々困るだろ。両親にどうやって説明するんだよ」
「でも……」
天音はその言葉を聞いて、シュンとしていた。
「でも、明日は土曜日だし、一緒に街中で遊ぶことは出来るから。久しぶりに休日を過ごそうか」
「う、うん!」
妹は作馬の言葉に笑顔を見せてくれた。
今は本当の気持ちは伝えない方がいい。
今はまだ、昔のように兄天音らしく過ごしたいからだ。
ある日の出来事の話なんだけど、俺が妹から告白されたんだが? 譲羽唯月 @UitukiSiranui
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます