ドラマーIN US#4サニーサイド

矢野アヤ

第1話 グランマ・ジェニファー

 どんな時でも休まなかったジェニファーが、ドラムのレッスンに来なくなった。

 ジェニファーの初孫、二歳になったばかりのライリーが亡くなったとの連絡を受けたのは、新年明けてすぐだった。「人生で最悪のことが起こった」と言うジェニファーに、ドラムを教えている夫は2、3日おきに連絡を入れる。「時間が解決すると信じている」と希望が綴られる時もあれば、「自分を正常に保てない」「普通に息ができるようになったら会いたい」など短いメッセージが返ってくる。必ず「気にかけてくれてありがとう」の言葉が添えられて。

 ジェニファーのレッスンに連れられてきたライリー。始めは膝の上に座って叩いていたが、最近は一人で椅子に座って叩けるようになっていた。夫にとっては、ジェニファーと息子さん二人、そしてライリーと3世代に渡ってレッスンするのは初めのことで、そんな思い入れのある特別な生徒さんだった。

 4年ほど前の、「長男Rが警察に捕まって迎えに行ってたの。今日のレッスンには間に合わない」という連絡が始まりだった。それからのジェニファーには、大変な、では済まされない様々なことが続いた。

 少し気の弱いところのある大人しい少年だったRは、高校2年の時、麻薬を販売し捕まった。違法ドラッグだった。高校を退学になり、犯罪と不幸な事故が重なり、今は刑務所にいる。警察官のご主人とは離婚に向け別居中だ。

  当時のガールフレンドとの間に生まれたのがライリー。ライリーの成長に合わせるようにジェニファーにも笑顔が戻ってきていた。そんな中の事故だった。

 何もできない痛みを前に、こうして書くことに何かを求めているのかも知れない。

 朝起きるとまずお湯を沸かして白湯を飲む。乾いた体に暖かい液体が優しく染み込んでいくのを感じながら、ジェニファーの心にまた、暖かい音が流れることを祈る。 

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