第2話 金
あれから俺は、大金持ちになった。
なにせあの斧、持ち手の部分まで純度100%の金でできていた。
だから、相当なお金が手に入った。
今では豪邸に住み、自分の会社まで立ち上げている。
だから、もう木こりをやる必要もなくなった。
しかし、気になることがある。
「あの泉……」
別にお金を稼ぎたいわけじゃない。
欲張り者は破滅することは、昔話から学んだからな。
ただ……。
「斧以外なら……」
どうなるんだろう。
あの後、世界中のいろんな文献や言い伝えを調べてみた。
どうやらあの泉の類は、他の地域や時代にもいくつか存在していたようだ。
どの話でも、泉に物を入れると女神が出てきて、金と銀の物を提示して、正直に答えると全てをもらえるらしい。
別に斧に限っているわけじゃないみたいだが、場所が森の中だけに斧が多いようだ。
「そこで……だ」
斧以外のものを入れてみるのはどうだろうか。
単純に金塊の形が変わるだけ?
では、金に変換できなさそうなものは?
それならどうなるのだろうか。
――――――――――
「よし、着いた」
あれから数年経っていた。
俺が切らなくなったから、草木があのときより生い茂っている。
が、腐っても俺は元木こりだ。
森は俺の庭、無事にあのときの泉にたどり着くことができた。
「さて、さっそく始めるか」
ドサッと下ろしたリュック。
その中から取り出したのは、手のひらに収まるくらいの小さな……。
「金の延べ棒だ」
普通のやつよりはずいぶん小さく加工している。
理由は持ち運ぶのが大変だから。
金って、意外と重いんだぜ?
もう二度と金の斧を必死に引きずるなんて苦行はしたくない。
「これ……入れたらどうなるかな?」
金の金の延べ棒が出てくるのか?
元から金なのにか?
それに、銀の金の延べ棒も出てくるはずだ。
なんだろうな、銀でコーティングされた金とか出てくるのか?
「まぁ、とりあえず入れてみるか」
俺は頷くと、延べ棒を投げ入れた。
ポチャンと小さな音を立てて、金は沈んでいく。
不思議なことに、泉の底は浅いにも関わらず金はすぐに見えなくなった。
「あなたが……」
「おっ……きたきた」
久しぶりに聞いた。
まだこの泉の異常性は失われていないらしい。
「落としたのは……」
さて、女神はなにを持っている?
俺の胸が高鳴る。
「金の金の延べ棒ですか? 銀の金の延べ棒ですか?」
「なっ……」
やはり……そうか。
そうなるよな。
見た目では、金の金の延べ棒は元の延べ棒と同じで、銀の金の延べ棒は元の延べ棒を銀色にしたようなやつだ。
……俺も言っててよくわからなくなってきた。
「それ……」
つい、質問をしかけた。
しかし、いけない。
余計なことを言うと、彼女が帰りかねない。
「俺が落としたのは、普通の金の延べ棒だよ」
「あなたは正直者ですね。正直者には、全て差し上げましょう」
あのときと同じく、俺が答えると女神は手に持っていたものを合わせて三つの延べ棒を草むらに置き、泉の中へ帰っていった。
「さて……帰るか」
三つの延べ棒を、リュックに詰める。
「なんか……重いな」
単純に三倍になっただけ……か?
――――――――――
「社長、結果が出ました」
延べ棒の分析を任せていた秘書が部屋に入ってくる。
「おっ、どうだった?」
「まず、金の金の延べ棒ですが……」
さて、どうなってるかな?
「こちら、金の純度が高くなっています。現代の技術では不可能なほどに圧縮されており、元の純度の二倍になっていました」
「なるほど……」
つまり、金の重ねがけをしたわけだ。
さすがになにかは変わっていると思っていたが、そう来るか。
「そして、銀の金の延べ棒ですが……」
こちらも面白いことになっているに違いない。
「完全に純度100%の銀に置き換わっています。元から銀であったかのように」
あー……。
まあ、そうなるよな……。
当然か。
「ありがとう。助かったよ」
面白い結果が得られた。
単純に金に変えているわけでもなさそうだ。
今後の実験の参考にしよう。
「それにしても、社長。このような興味深いものを世に発表しなくてもよろしいのですか?」
秘書が尋ねた。
たしかに、彼の意見ももっともだ。
だが……。
「そんなことしたら、これからの研究が台無しになっちまうだろ?」
泉にはまだまだ試したいことがたくさんある。
それが終わるまでは、誰にも言えないのさ。
「これは俺と、信頼のおける秘書のお前だけの秘密だよ。わかってくれるか?」
「もちろんです、社長」
泉の女神が提示する物品について 砂漠の使徒 @461kuma
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