第3話 不思議なペン

「ではではお嬢様、そういうわけなので、早速この執事に何かご要件などはありますか?なんでもよろしいのですよ〜♪」


「…………」



ただ普通に絵を描いていただけなのに、いきなり目の前に現れて、いきなり"凜の執事"だと名乗り上げて、いきなり凜に"誠心誠意仕える"と宣言し出した、この謎の執事(?)さん。

さすがの凜でも全くついていけていないのを他所に、彼は1人上機嫌になって話を進めている。



「……あ、ちょ、ちょっと待って…!えっと、し、執事、さん」


「は〜い、なんでしょうかお嬢様?なんでも仰ってくださいな♪」


「………あ…あの、えっと…たしか執事さんは、凜がさっき描いた絵から、出てきたって言ってたけど…そ、それって一体どういうこと、なの?なんで、絵から出てきたの…?そんなことが、ほんとに、あ、あり得るってこと??何かの魔法、とかなの…?」


「…ふふふ♪さすがですね、お嬢様。よくぞお聞きしてくれました!」


「へ…!?」


「単刀直入に言わせて頂きましょう…先ほど、お嬢様がお使いになられていたペンがありましたよね?」


「え?あ、うん…」


「じ、つ、は♡なーんとなんと、あのペンには!"頭で想像して描いたことをその通りに実現化させてしまう"という超越した能力があるのです!!それも最初に拾った者だけに与えられるものなので、他の誰かが使っても効果はなーんにもありません。つまり!あのペンはお嬢様だけに与えられし特別なものであり、その能力はお嬢様のものも同然、というわけなので〜す♪」


「…………へ…、へ〜〜…な、なるほど〜……」


この執事さんが突然現れた時点で今さらだけど、改めて聞くと、その理由がわかって別の意味では納得できたとはいえ、やっぱり驚くよね、こんなことを急に聞かされたら。

しかも実際にそんなことがあり得るっていうこともそうだし、よりによってそれが凜にだけ与えられたっていうのが、さすがに実感わかないっていうか。普段から自覚的にも空想ばかりしてるし、ここまで来ると遂に凜の頭はどうかしちゃったのかなとか、それとも夢でも見てるのかなとか、そう思えるレベルだよね、これって。



(で、でも…信じられないくらいの話だけど、確かに実際にこの人は、さっきまでいなかったはずなのに、凜があのペンで絵を描いた時に突然、謎の光と共に現れたっていうのが現状なわけで……それに見た目も凜の描いたイラストそのままだし、設定とかも、凜の思い描いた理想像がそのまま生き写されてる感じっぽいし…)


「…も、もしこれがほんとなら……す、すごい…すごすぎるよ…この力。夢じゃ、ないんだよね?ほんとに…空想の延長とかでも、ないんだよね…」


ごくりと唾を飲み、その不思議な力が確たるものであるのかを、まだ少し半信半疑になりながらも、どこか大きな期待も抱いていた。


「はい〜もちろんです、私は嘘は言いません!それもよりによってお嬢様に向かって嘘をつくなど、無礼千万極まりない愚行!なんなら今一度お試しになられてみては?そのペンの力を…」


そう言って少し妖しげにニヤついた表情を浮かべながら、ペンの力が本物であることを証明するための確認を促す執事さん。


「……う、うん…わかった、やってみる」


凜はそんな執事さんに流されるように、でも内心ではそのペンへの期待に胸を躍らせている気持ちに従っているような感じでもあった。

ペンを握る左手には汗がにじみ出て、心音はうるさく鳴り響く中、少し小刻みに震える手になんとか力をぐっと入れるようにして、その筆を下ろそうとした。



「……あ…そ、そういえばまだ、何を描こうか決めてなかった…」


「おや。それならとりあえず…う〜んそうですねえ、では…お嬢様の今のお望みはなんですか?そのヴィジョンをイメージし、思うままに描いてみてはどうでしょう。基本的にそのペンは、そういった用途で使用されるものですし、丁度宜しいかと」


「の、望み…そう言われてみると…望みはたくさんあるけど、いざ言われると、なかなかパッと浮かばないものだな〜…」



いつもならあれこれとイメージや理想像がぽんぽん出てくるのに、こういう肝心な時になるとすっかり鳴りを潜めちゃう。しばらく考え込んでいた、その時。



「凜!凜!今日はゴミの日よ、早く部屋のゴミをまとめて持ってきなさい!まったく、ほんとにあんたって子はこっちから言われないとなにもしないんだから…」


「!!うわ、ママだ…!ゴミの日ってこと、すっかり忘れてた…あ〜、めんどくさいなあ…」


「おや、あのお声はもしや、お嬢様のお母様ですか?これは早速ご挨拶をしなくてはなりませんね♪」


「!だ、だめ!!いきなり絵の中から出てきた見ず知らずの人だなんて、ママに知られたら大変だよ!それにこんなこと、どうやって説明すれば…絶対に信じてくれないよ…」


「ほ〜う、それなら返って好都合じゃないですか〜!そのあり得ない状況を大きく覆すことができる唯一の方法が、目の前にあるではありませんか♪」


「はっ…!そ、そうだ…こういう時こそ、さっきのペン…!!」


早速、凜は少し興奮気味になりながらペンを握り作業へと取り掛かった。

描く内容は、『執事さんはママ公認で最初から家で雇われていて同居している存在』という感じ。


「…あ、でも、これ…時間がある時とか暇な時は絵でも良いかもしれないけど、こういう具体的な内容を絵で描くのってちょっと厳しいかも。せいぜい一枚絵ならそこそこ良い感じに描けるけど、漫画みたいに描くのは凜には難しいし…」


「ああ〜、それならご心配なく!このペンはあくまで"空想を実現化させる"というものなので、表現方法にとくにこれといった決まりや制限は基本的にありません。なにも絵を描かずとも、ただ頭に思い描きながらそれをペンで描き表せば良いのですから文章を書くだけでも効果はあります」


「そ、そうなの…!?余計にすごい…!良かった、それなら助かっちゃうなあ♪じゃあ文章で書こう!」


仕切り直し、凜は目的の内容を文章で書き連ねた。



「……よし、できた!ど、どうなのかな…もう、実現されてるかな?」


「ええ、確実に♪早速確認しにいきましょう、いざ、お嬢様のお母様のもとへ!」


「あ!ちょ、ちょっと待ってー!」



執事さんはウキウキした調子でママのところへ確認に向かいに行き、凜も執事さんの後に続くように駆けていった。


────────────────────


それから、ママのいるリビングへ来た凜たち。執事さんはリビングに来るや否や、いきなりママの前で正座して、改まって挨拶を始めた。


「初めまして、お母様!私、凜お嬢様の執事として仕えさせて頂いている者です。どうぞ宜しくお願いしますね♪」


その様子を凜は、少し緊迫した気持ちで横目で見ていた。するとママは…


「はあ…?急にどうしたんですか執事さん?今さらそんな分かりきっていることを…何かのお遊びか何かですか?」


(!!うそ……ほ、ほんとになってる…描いた通りに…)


「ね、お嬢様?言った通りでしょう?」


執事さんが小声で、凜に耳打ちするようにそう言った。


「………う、うん…」


─────────────────


お部屋に戻った早々、凜はさっきのペンの力が正真正銘本物であったことを確信して、あまりの驚きと嬉しさとで感情が高ぶった。


「…す、すごい!すごいすごい、すごいよこれ!ほんとにすごい!!こ、これさえあれば、ほんとになんでもできるんだ…!」


「その通り!このペンさえあれば、この世界の全てがお嬢様の思い通り♪そう、お嬢様は世界そのものを手に入れたということなのです!」


「うん、うん…そうだよね…ほんとのほんとに、せ、世界が…世界が、変えられる…このペン1つで、凜の理想の世界が、実現できるんだ…も、もう空想とか妄想だなんて言わせない、落ちこぼれだなんて言わせない…凜は遂に、遂にこの世界を攻略できるんだ…!!」


「そうです!お嬢様の手で、この世界をより美しいものへと変換させてみせましょう!そしてこの執事も、お嬢様へ仕える身としてなんでもサポート致します!お嬢様の、お嬢様による、お嬢様のための世界攻略を今、共に!!」


「ふ、ふへへへ…よ〜し…や、やってやるぞ…世界征服ならぬ、"世界攻略"を!」



夢の世界攻略を目指し、凜たち2人は、まるで少年漫画に出てくる決意表明をする主人公みたいなテンションで宣言した。



「……あ、そういえば、ゴミ出しのこと忘れてた」


「おやまあ…」


「こ、これもペンで解決しちゃおう、かな?」


「ふふ♪さすがですお嬢様♡」


「ふへへ…こんな使い方も、いいよね?」



その後、ペンのおかげでゴミ出しは来週まで先送りすることに成功しました☆

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溺愛系執事を召喚してしまった底辺少女、今日から2人で世界攻略はじめます! いちごみるく @ichigo-milk44

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