第2話 お絵描きしてただけなのに

今日は久しぶりに1人でお出かけ♪これから家に帰るところです。


凜はお出かけは好きなんだけど、外に出たら小さい子が大きな声をあげたりとかで騒音も多いし、道を歩いてたりお店でウロウロしてるだけでも人がわざわざ凜の近くばっかり通ってきて、そのたびにこっちから動かされて邪魔者扱いされるっていうのがイヤでイヤで…それもあってお出かけする頻度が下がっちゃうんだけど、ほんとはお家でごろごろするだけじゃなくお出かけするのも大好き!



「お小遣いの範囲で買えそうなものを買いに出かけたけど、やっと欲しかったぬいぐるみも見つけたのにお金足りなかったから買えなかったな〜…はぁ…」



そうため息をついていると、もう家が目に届くところまで到着していた。

そのまま直帰しようとした瞬間、家の入口の近くに何かが落ちているのが見えた。



「ん…?あれ、なにか落ちてる?なんだろ…」


なんとなく気になって、近くまで駆け寄ってそれを拾ってみたら…


「これ…ペンだ。でも、なんでこんなところにペンが落ちてるんだろ?誰かの落し物かな」


不思議に思って、しばらくそのペンを握ったまま、じっと見つめていた。


「…は!いけない、早く帰らないと。このペンは、えっと…でも誰のかわかんないし、このまま落としていくのもなんかイヤだし…せっかくだから持って帰ろうかな?最近ペンを紛失しすぎたせいで絵を描きたくても描けなかったし、丁度いいや♪」


もともと、落し物でもなかなか物を手放せない癖がある凜は、すぐにそのペンを持って帰った。


──────────────────


あれから家に帰宅して、すぐお部屋に直行!

ちょうど描きたいテーマもあったし、早速このペンで描いてみよっと♪


「ん〜と、まずは、前からずっと描こうと思ってたキャラクター!凜と違って、なんでもできる人で…あとはやっぱり、優しくていっぱい甘やかしてくれる人がいいなあ」



凜はもともとコミュ障気味でぼっちで今はニートだから、交流の場も学生時代以上に必然的に激減していてリアルでの人との関わりはママ以外に誰もいない。家にいても家事なんてできっこないから何もすることがなく暇だけがたっぷりと残ってる。

その時間のほとんどは、一通りのことはなんでもできる“スマホ”を使用することに費やされていて、ネットサーフィンを中心に色々なことを調べて偏った知識がついたり、ネットにいる人間のイヤな部分にも直面してしまい、その度に不満が募ったりする日々。


もちろん、誰かと誰かのやり取りでの論争もよく見かけるけど、凜の投稿に対してイヤなことを言ってくる人はもっとたくさん。内容も書き方も色々なのに高確率でイヤなことを言われる。凜が思ったことや気になったこと、凜のアイデアや価値観も思想も趣味嗜好もぜんぶ、否定されるものばっかりだから、この世界に凜の味方や理解者は誰もいないのかなって思うこともよくある。

だから凜は、もともとお絵描きや空想が好きなのもあって、そんな気持ちも込めて色んなことを空想したり、その思いを絵にして理想の人を描いたりするようにもなった。



「どうせなら、うちは男の人がいないから男の人がいいかな?スタイル抜群で、顔もこう、なんか綺麗な人で…そう、執事って感じの!それでこの人が凛のことをサポートもしてくれたりして、あと凛の世界攻略の夢も賛成して一緒に協力してくれる…なんて♪」



それから、あれこれ空想しながら絵を描き終わるまで、約1時間が経過。



「よーし、できた!凛の理想の人!名前は…うーん…まだ分かんないから決めてないけど、まあいっか♪」


そう1人で機嫌良く浮かれていると…




「……ん?…あれ?なに、これ…なんか絵が、光って…る、よね。あれ?あれ?目がおかしくなっちゃったのかなあ…それか空想のしすぎとかアニメの見すぎとか…」


あまりに突然の事態が起きて、さすがに頭がお花畑の凛でも狼狽えた。だって、絵がいきなり光ったんだよ。そりゃあ誰でもびっくりしちゃうよね?


そして光はさっきよりさらに大きくなって、その光はいつの間にか目の前全体にまで広がるようになって周囲は光に包まれて視界も遮られた。


「え?え?なになになに!?なんか光が…光が広がって前が見えない…!!なにこれええぇぇ!?」




それからしばらくして、周囲の光は少しづつ消えていって、だんだん見えるようになってきた。すると



「……?あれ?な、なにか、見える…なんだろ…ぼんやり、影?みたいなのが……」


薄れていく光の中から、人影のような“何か”が見えた。不審に思って、そっと近寄って見に行こうとしたら……




「おっと、これはこれは。初めまして、お嬢様」


「ぅわあ!え!?え!?だ、誰?誰なの?なんか男の人の声が聞こえたけど…そこに誰かいるの…?」


今度は謎の声が聞こえてきて、さっきからずっと狼狽えることしかできない凛。そうしているうちに、光はもうほとんど消え去っていって視界も元通りになってきた。すると、そこには…



「……!!…ええ!!?え、え、だ、誰…!?なんでうちに、知らない男の人が…」


部屋に、ちょうど凛の目の前には、知らない男の人が立っていた。冷静に観察してみると、その人はスラッとしていて身長も高そうで、顔も綺麗で…なんかこう、紳士みたいな雰囲気の人だ。



「おや…お嬢様、私のことを覚えていらっしゃらないのですか?もしそうなら、少し悲しいですねぇ」


え?覚えてないって…だってそもそも初対面の知らない人だよ…?しかも絵を描いてたらいきなりその絵が光り出して、その光の中から突然現れたし…。それにお嬢様ってなんのことだろ?凛は残念ながらお嬢様とは程遠い身分だよ…



……………ん?ちょっとまって……。絵…?光…?光の中から……??



「……ハッ!!ま、まさか……!?ま、まさかだけど…あ、あなたは、その、凛がさっき描いた絵が光って、その光が大きく広がって、そこから出てきたってことは……あなたは、もしかして、その……凛が描いた絵の人が、実際に出てきた…とか…?それが、あなたってことなの…??」



「ふふふ…お見事です!さっすがはお嬢様、大変お聡い判断力ですね〜!この私、お嬢様の執事として大っ変、光栄であります♪」


「……へ??執事?り、凛の…??あなたは、凛のし、執事、なの?」


「もっちろん!この私は、凛お嬢様専属の、忠実なる執事でございます♪お嬢様は先ほど、絵を描いていらっしゃいましたよね?その時にお嬢様は『なんでもできて、優しくて、いっぱい甘やかしてくれる執事が凛の理想の人♡』と、愛の告白をしていらしたじゃないですか〜♪そのお嬢様の理想の人こそが、この私なんですよ♡お呼びになられたようでしたので、私自ら、お嬢様の前に姿を現したのです♪」


「………ふぇ〜〜……な、なんだかよくわかんないけど……凛がそう思い描いて描いた人が、そのまんま実現化した、っていう感じななのかな…?今でも不思議過ぎて、あんまり理解が追いついてないけど…」


「は〜い、その通りです♪私はお嬢様の理想の人であり必要とされた、そして私も、お嬢様を心から愛してやまず必要としている。そう、これはつまり、相思相愛なのです!」


「と、いうわけなので、改めて決意表明しましょう!私はこれから、“お嬢様に誠心誠意仕える”ことを、今ここで誓います!そういうことなので、これからどうぞよろしくお願いしますね、お嬢様♡もし何かお困り事などがあった際には、なんなりとお申し付けください。この執事、凛お嬢様のためならば、たとえ火の中水の中、この命も惜しくはありません!!」


「………は、はあ……よ、よろしく、お願いしま、す…?」



よ、よくわかんないけど……凛、普通に絵を描いてただけなのに、不思議な執事さんを召喚してしまったみたいです。

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