第一話・始まりの朝


ピピピ... ピピピ... ピピピ...


 耳障りな音で目が覚めた。スマホの画面を見ると時間は6時30分、スヌーズは二件。6時起床の予定が少し寝坊してしまったようだ。支度は昨日のうちで済ませてあったので今日のところは少しの寝坊も多めに見ようと考え布団を捲る。4月の朝はまだ少し肌寒く、布団を出るのが嫌になった。意を決してベッドから起き上がり、寝ぼけ眼で階段を下る。リビングの扉のドアノブへ手をかけようとした所、さながら自動ドアかのように開いた。顔を覗かせたのは父だった。

 「おぉ、びっくりした。おはよう、丁度お前を起こしに行こうと思ってたんだ。」

 「ごめん驚かせて。 ...あ、おはよう。」

今日は入学式という日だったこともあって父が起こそうとしてくれていたらしい。

リビングのソファに戻る父を追うように部屋に入る。テレビはニュースの天気予報コーナーを映していた。母が朝食を料理している間、ソファの後ろに立ってテレビを眺める。今日の気温は12度と少し低めとのことで、新しい制服の下に少し厚めな肌着を着ることにして、ストッキングも厚手のものにしようと考えた。

 「ご飯できたよ〜。」

母がキッチンから呼びかけてくれた。

 「「はーい。」」

父と私が同じタイミングで返事をし、ダイニングテーブルへと向かった。

今日の朝食はパンとベーコンを敷いた目玉焼き、サラダとヨーグルト。いつもと変わらない献立に安心感を覚えた。まるで心の逆立った毛並みを優しく撫でて揃えられたようだった。

 食事を終え、時計は7時を指していた。ダイニングルームを出て寝ぼけたままの顔を切り替えようと洗面台へ向かう。給湯器が動き出したばかりの冷たい水を顔に浴びせて心臓がきゅっとした。おかげさまと言うべきか、どこか眠かった頭がすっきりしていた。洗面台のシンク脇、コップに立てかけてある歯ブラシを取って歯を磨く。いつも通りのルーティンだ。

あらかた支度を終え、部屋へと戻る。いよいよ新品の制服に袖を通す時間だ。厚手の肌着をクローゼットから取り出し、一つずつ身に着けてゆく。慣れない制服で少し手間取ったが、どうにか着替えを終えることができた。

 すべて支度が終わり、玄関で座り込む。新しいローファーを手に取り片足ずつ履いているが、やはり新品でかかと上が固くて痛く思えた。

 「お母さん! 絆創膏2枚くらいもってきて!」

と大きな声で母を呼ぶと、

 「今持っていくね~。」

母の声がして数十秒、私の前に現れたのは父だった。支度していて洗面所から出たところで母から絆創膏3枚を託されたらしい。

 「いよいよだな、楽しんで来いよ。ほら、ばんそうこう。」

 「ありがとうお父さん。いってくるよ。」

背中を押す父の言葉に少し緊張が再燃した気分だった。すると奥から、

 「いってらっしゃい~」

と母の大きな声がした。

 「行ってきます。」

とつぶやいて後ろを振り向くとにっかりと笑った父の顔が目に入った。家族の温かさに勇気をもらって玄関の重たい扉を開く。まばゆい光が目を指すように一欠けらの雲さえ見当たらない晴天だった。外の空気はどこか澄んでいて、新たな物語の一頁を開いたような気分になった。

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