第69話 勝てばいいんだ勝てば
俺はイールミィたちが包囲されるのを見ながら、バイクで移動していた。
向かっている先は少し離れたところで戦っている、賢鷹と竜皇の戦場だ。
さて俺はなんで自軍を放置して、他の戦場へと向かっているのか。それは簡単だ、この戦いの勝利条件は我が軍が勝つことではないから。
『いいんですか? イールミィがまた泣いちゃいますよ? 騙されて囮に使われたって。信用されてないんだって』
「いやいや、信用してるから囮に使ったんだよ。あいつは色々と悲しい目にあってきたから、その反省を活かして戦うはずだ。つまり麗人相手に余計なことはせずに時間稼ぎに徹してくれる」
『それもしかして褒めてるつもりですか?』
「べた褒めだが? 自信過剰な奴ほど言うこと聞かないし、そんな奴は麗人相手じゃあ簡単に負けるからな」
俺はイールミィを評価している。あいつは捨て猫ミィになって悔しがり、己の行動を鑑みて行動しているのだから。
そんな痛い目を見たあいつだからこそ、麗人相手に迂闊なことはしない。
『でもイールミィはクソガキの助けを待ってますよ?』
「なに言ってるんだよ。これも助けだろうが。俺たちが側面から竜皇の軍に攻撃することで、賢鷹を勝たせたら援軍に向かわせられるし」
『しかし麗人はよく気づきませんでしたね。勘に優れた彼女なら察すると思ったのですが』
「逆だ。麗人は勘に優れて過ぎてるから、考えれば分かる俺の行動を察しきれない。なにせ俺はあいつに対してなにもしてないからな」
麗人は自分に仕掛けられた策に対して、あり得ないレベルの勘を働かせる。ならばこちらはなにもしなければいいのだ。
今回の戦いでの賢鷹陣営が、麗人竜皇同盟軍に長じているところがひとつだけあった。それはこちらが全員が賢鷹の下についているが、敵は対等な立場の二軍が組んでいることだ。
つまり竜皇と麗人は別々に戦っていて、しかも麗人の相手をしているのはイールミィだ。
イールミィは俺がなにをするか知らないので、つまり俺は麗人に対しては一切なにも仕掛けていない。
勘に鋭い者は思考もそれに頼るところがある。だからこそ己の勘が働かないことには弱い。
『なんというかセコイ手ですよね』
「策略ってのはセコイもんだろ。まあ今回限りしか使えないだろうけどなこれは」
麗人相手に同じ手は通用しないだろうしな。まあ俺としては今回通用すれば十分だ。
そんなことを言ってる間に、賢鷹軍と竜皇軍が見えてきた。見る限り、賢鷹軍が徐々に竜皇軍を包囲し始めている。
だがあのままでは決着までかなりの時間がかかるだろう。竜皇軍には竜皇という理不尽戦力があるので、迂闊に仕掛けても力でぶち抜かれてしまう。
なのでゆっくりと攻め立てるしかない。だがそれではイールミィたちがもたないわけで。
ちなみに賢鷹軍の魔物はゴーレムが主軸で、竜皇軍の方は筋肉じゃなくてオーガとかが多い。
「じゃあ竜皇の軍の横っ腹を殴りに行きますか。八万魔素を使った魔物でな」
イールミィに預けた魔物の軍は、七万分の魔素で用意したものだ。
実は俺の切り札はタンクゴーレムではない。タンクゴーレムは確かに強力ではあるが、竜皇相手だと普通に破壊されそうだからだ。
竜皇の足は下手するとバイクより速いので、タンクゴーレムが離れた場所で砲撃してもすぐに肉薄されて潰される可能性が高い。マジであいつ化け物なんだよなぁ……。
ならばそんな竜皇相手に相性のいい魔物とはなにか。それはあいつ自身では届かぬところから戦える魔物、つまりは……。
「よし。出でよ、ファイターゴーレムたちよ! 空から竜皇軍を攻撃せよ!」
俺の頭上に鳥を模した戦闘機のゴーレムが二機現れた。
竜皇の弱点、それは空から攻めることだ。いくら筋肉の怪物たる竜皇とて、筋肉の翼までは持っていない!
まあそれでも弓とか槍でいずれ撃ち落とされそうな気はする。それに竜皇自身がドラゴンの背に乗ったりするだろう。
だがその場合でも空を飛ぶのはドラゴンであって竜皇ではない。いくら化け物みたいな奴でも、乗ってる魔物まで怪物には出来ないのだ!
ならばファイターゴーレムで戦いになる!
「行け! ファイターゴーレムたちよ! 竜皇軍を攻め立てろ!」
ファイターゴーレムたちは空から竜皇軍に機銃とやらを放ち始める。
弾丸がオーガや生徒を襲って肉や血が跳ねていく。ここは箱庭なので生徒が死んでも蘇るから、いっさい手加減をするつもりはない。
というか加減してる余裕がない! 早くしないとイールミィが負け猫ミィになるぞ!
「むぅ! なんだあの鳥はぁ!」
姿が見えないくらい離れているはずなのに、竜皇の咆哮が聞こえてきた。
だが遠く離れているファイターゴーレムはそうそう落とせないだろ! というかこいつマジで破格な性能を持つ魔物だな。
なにせ鳥のように素早く空を飛べるのに、それでいて高い遠距離攻撃力を有している。例えばドラゴンも空を飛べるが、奴らは空中ではそこまで素早くない。
逆に鳥のような魔物もいるが、そいつらはあまり強い攻撃ができない。せいぜい投石が関の山だ。
だがこのファイターゴーレムは機銃によって、高い飛行能力と攻撃力を両立しているのだ。
ベールアインから聞いた話では、日本ではこんな化け物みたいなのが量産されたとか。流石に信じがたい。
ファイターゴーレムの攻撃によって竜皇軍の陣形は乱れ、しかも完全に混乱している。よしこのまま行けば一気に勝てる!
「ファイターゴーレムよ! 竜皇軍を食い破……っ!?」
そんなことを叫ぼうとした瞬間だった。空を飛んでいたファイターゴーレムの一機が爆発したのだ。
「……はい? なんで爆発した?」
『竜皇が石を投げました』
「…………やっぱりあいつ化け物じゃねぇか!?」
だ、だがまだ一機残っているし、それにすでに竜皇軍は崩れている。賢鷹によってゴーレムたちがさらに攻め始めたところだった。
「むんっ! 我に続けぇ!」
竜皇軍は一気呵成に俺の方向へと、いや違う。麗人の軍に向けて突撃し始めた。
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