最終話:裏切りのお返し

 その後の3月、絵星の後の彼女となる蒲本かまもと夢叶ゆめかとばったり出会ってから、月輝の見る世界ががらっと変わったように感じた。次第に彼女の可憐さと人柄に惹かれる。最初は良き友となった絵星の邪魔はしてはいけないと、2人のことを応援していた。だが。




『友達の彼女、ねぇ。難しいところだけど――黙ったままで後悔するよりは、はっきり言ってぶつかって……後悔した方がマシじゃね?』




お盆休み直前に月輝にそう言ったのは、共に毛里建設で働くとある先輩だった。実家に帰っている間にどうするか考え、やっとの思いで『好きだった』と夢叶本人にはっきり言ったのである。


――を、友から奪いたいと本気で思った。だが、それは叶わなかった。


 時はもう、12月の中旬を迎えていた。絵星の件がひと段落してからのこと。夢叶からこんなLINEが届いていた。


『今度の日曜日お休み取れたから、絵くんと3人で遊びに行こうよ!』


月輝はまだ諦められることのない想いを抑え、


『いいよー、予定空けとくわ。』


と返事をし、そのまま眠りにつく。


 実はこの日、珠々の1周忌の日だった。月輝は何もしないまま1日を終えるところだった。




『月輝くん。今まで黙ってて、ごめんなさい。大家のおばちゃんの隣で、ネットでいじめにあっていたこと、精神科で全て話した。私を守れなかった、だなんて思わないで。それと――』




夢の中に、珠々が出てきたのだ。きょとんとしながら、話を聞く月輝自身がそこにいる。




『月輝くんのあのお友達カップルは、私たちの敵だよ。よくよく見てたら、最初っからお幸せムードなんてムカつく。1人ぼっちにさせてしまった私が言えることじゃないかもしれないけど。心はいつでも、繋がってるよ。』




夢の中にひっそり現れた珠々は、そのまま消え去っていった。


 翌朝、月輝が目を覚ますといつもの光景に戻っていた。


(俺は、幻でも見たのか……? そういえば昨日って確か――)


捨てていたはずの過去を振り返り、珠々の1周忌であったことをやっと自覚した。そして、夢の中で言われたことを思い出す。


(……うん、確かに、そうだ。やっと目を覚ましたよ、珠々。天国から見守ってくれて、ありがとう。)


 過去と向き合えた月輝は、人が変わったかのように夢叶と絵星に対して冷たく当たるようになる。先に絵星とは完全に縁を切った。夢叶とは一時的に話すことがなかったが、安否確認の意味で年明け、久々にLINEで話すことにした。だが、絵星のことを批判するような台詞しか言えなかった。


(こんなことになるために、ここに引っ越してきたんじゃなかったんだよ――)


怒りと悲しみ。最後に夢叶と対面した時は、この2つを彼女に叩きつけ、追い出してしまった。彼女に好意を寄せたことは、後悔していなかったのに。


 その後月輝は毛里建設を退職し、実家に帰ることに。だが地元に戻っても、実家以外に居場所がない。通夜も告別式も出ず、むちゃくちゃしたまま全てを投げ出してしまったのだから。誰にも相手にされないのを承知の上だ。


――天国にいる珠々は、味方だと思っていた。


 帰ってきて荷物を片付けたあとすぐ、墓地へ向かいウロウロすること数分。珠々が眠るお墓を見つける。


(珠々――この1年間、何も出来なくてすまなかった。これから、寂しい思いは決してさせないからさ。末永く、天国から見守っておくれよ。)


お墓の前でそう祈りを込めた月輝は翌日から、実家周辺で次の仕事探しへ動き出す。この辺はまだ知り合いがそんなにいないから、苦にならなかった。


――しかし。


 22歳の誕生日を迎え、新たな気持ちで立ち向かいたいところ、何度も面接を受けるも落ち続け、無職のまま新年度を迎えそうだ。


(俺――呪われてる? 何か悪いことでもした?)


そう焦りを感じた月輝は、ハローワークへの通い詰めがだんだん辛くなっていた。そんな中再び、珠々が夢の中に出てくる。


――血相を変えて。




『私、知ってるよ? 私を置いてこの街出ていっただけでも酷いのに、月輝くんがあのお友達の彼女さんに手を出したこと。どうして惚れちゃったのかなぁ。知りたいなぁ。心はいつでも繋がってるって思ってたのに。呆れちゃった。私は天国で他の男と幸せになるから、もう私のこと忘れてください。さ・よ・う・な・ら。』




「――うわぁぁぁっ!?」


早朝にも関わらず、叫び声とともに起き上がる月輝。冷や汗をいっぱいかいていた。


(珠々、どうして? 君に裏切られたら、俺の居場所は、もう……ないのか……。)


 朝食を食べ、重い足取りでハローワークへ行こうとするが、もう明るい兆しはないと割り切り、向かったのはすぐそこの公園の前を流れる川だった。


(珠々よ、君が天国で幸せになるなら、俺は地獄に落ちて過ちを…ことにするよ――)


 川の目の前に来て、不意に夢叶と絵星の2人の顔が浮かぶ。


(2人とも本当に、迷惑かけたな。俺の分まで幸せになってくれ。)


月輝は迷うことなく川へ飛び込み、この世から別れを告げたのである――



【完】



――――――


【作者より】

こんな感じでバッドエンドっぽく仕上げました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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