第7話:知らなかった事実

 珠々の両親へ挨拶を終え、帰ってからも泣き続けた月輝。その状態で侑生に電話をかけた。


「そんな、山内さんが…。まずは、仕事できるようになってからでいい。それまではゆっくり休め。葬式の日程が決まったらまた連絡する。中木のメンツから、来れる人間で出よう。」


 その日の夜侑生から再び連絡があり、2日後の夜に通夜、翌日の午前中に告別式が執り行われるとのこと。告別式当日、会社は臨時休業という形を取り、なるべく皆で出席するようにしたみたいだ。


 翌日。起きてからもうずくまったままの月輝を訪ねてきたのは大家さんだ。


「速多くん。今大丈夫かい? ご飯食べれてるか心配で来たのよ。」


「まあ、何とかなってます。さっき起きたばかりで、今日のところまだ何も食べてなくて。それで、どうしたんですか?」


「珠々ちゃんのご両親、珠々ちゃんが自殺した訳を速多くんが知ってるものだと思ってたって言ってたのが腑に落ちなくて。やはり、1人で抱えていたってことだよね。」


1人で抱えていたのは、月輝にも分かっていたこと。だがこの後、大家さんがを打ち明けることに。


「珠々ちゃんは、ネットで知り合った友達から仲間外れにされて、そしてその友達含めひたすら悪口を裏でいっぱい言われて。それを見て精神的におかしくなった。精神科で薬処方してもらっても副作用がきつくて、それで余計疲れて――こうなってしまったのよ。速多くんの前では明るくいようと本人は頑なで。だから、弱いところを見られたくなかったのかもしれない。」


「はぁ……そんなの初めて知りましたよ。小さいころから1人ぼっちだった珠々の力になるため、幸せにするために付き合うことにしたんですよ? それじゃあ――俺、ちっとも彼女の力になってないじゃないですか! なんか呆れました……。申し訳ないんですけど、1人にしてもらえませんか?」


再び1人になってうずくまる月輝。珠々への呆れと悔しさで涙があふれていた。


 彼女に合わせる顔がなくなり、通夜も告別式も出なかった月輝。そのせいで嫌な視線を受ける羽目に。やがて年末を迎え、仕事納めを機に中木建設を退職することになった。


☆☆☆


 退職後は実家に帰り、それでも引きこもってばかりだった年末年始。仕事を辞めてから1週間余りたった後、知らない土地へ行こうと思い月輝は実家を出ることにした。


 そこは電車で1時間程のところにある、かなり栄えた街だった。駅近くのネットカフェに寝泊まりをし、次の仕事と住まいを探すことにしたのだが、1週間もたてば金銭的にその生活が厳しくなってきていた。


(このままだと俺、飢え死になる――?)


頭が回っていない中ネットカフェを出て、赤信号のまま横断歩道を渡ろうとしたところ、隣にいたある大学生に腕を引っ張られる。


「おっと…まだ赤ですよ!」


この大学生こそ、橋渡絵星はしわかいせだった。


 どうやら絵星の家の近くまで辿り着いており、月輝を家に入れることにした絵星。


「そういえば、随分やつれてません? ここに来るまで、何があったんですか?」


家に入った途端、絵星が尋ねてくる。


「長くなるけど、それでもいいですか?」


これまでの経緯を絵星に話す月輝。


「本当にしんどすぎる過去で俺には君の心の痛みが想像できない…。それで何もかも投げ出してきた、ってことか…。」


「そうですね。知らない土地で1からまた頑張りたいと思って。あ、そうだ名乗ってなかったな。俺は速多月輝。これでも社会人3年目。実は――今日で21歳になったんです。」


「え? あら、同い歳だ! 俺は橋渡絵星で、今大学3年生。誕生日おめでとう――月輝。」


「ありがとう、絵星。」


 その後月輝は絵星の家で夕食を食べ、そのまま泊まることになった。


「仕事なくて困ってるんだったら、俺の父さんにでも相談してみれば? 確か、父さんとこ人雇ってもすぐ辞められて困ってるんだってよう愚痴吐いてたんだよねぇ。」


「まじか。なら、話だけでもしてみるわ。」


 やがて月輝は絵星の父親がいる毛里もうり建設という建設会社の事務員として働くことが決まり、絵星の家から歩いて数分のところのアパートの一室を借りることができた。知らなかったを乗り越えて、過去のことは放り捨て、新たなスタートを切ったのであった――

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