第1話 転生
微睡みの意識の中、俺の耳に甲高い赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
俺の人生で赤ん坊と触れ合う機会など滅多になかったが、これは誰の声なのだろうか。姪っ子か?いや姪っ子はもう高校生くらいのはずだから違うな。
そもそも俺は今まで何をしていたんだ?確か会社からの帰宅途中で……暴走するトラックが道路を走っているのを見て……危ないなと思いながら車道から離れたけど、目の前で信号を渡る女子高生が居たんだったな……あー、それで俺はその子を横断歩道から押し出して、代わりに轢かれたんだったな。
じゃあここは天国ってことか?でも天国だとしたら赤ん坊の泣き声が聞こえるっておかしくないか?いや赤ん坊でも亡くなってしまうことは有り得るのか……おっと。
身体が持ち上げられてしまった。今になって気づいたが、すごくぼやけて目が見えないな。目を擦ろうにも身体が自分のものでは無いかのように言うことを聞かない。
「あら起きたのねトルスター」
トルスター?誰だそいつは。そもそも俺に近しい人物で海外の人は居ないから、全く見知らぬ相手になるぞ……そもそもこの人は見知らぬ俺が近くで動けなくなっているのを気にしていないのか?もしかしてこれが欧米人のフランクさなのか!?確かにヒーローズシリーズに出てきた人達はかなりフランクだったな。
「どうしたの?」
あれ?持ち上げられた?もしかして俺、背が縮んでいるのか。いやまだこの人が、かなり巨人だったという可能性もある。
どちらにしろ俺は何かに巻き込まれたことは確実みたいだな。
「お腹空いたのね」
……っ!?目は見えないが、胸を近付けて来ているのを感じる!?それも隠す物がなく肌色が全面に広がっている気がする。
うん。俺赤ん坊になっているみたいだ。
これは不可抗力だからな。俺は飲む気がなかったんだ。ただ赤ん坊としてのこの身体が、ごくごくと乳を吸ってしまっただけなんだ。だから怒らないでくれ、まだ見ぬ父親よ。
「ゲップをしましょうね」
ミルクの余韻に浸っていたのに母親だと思われる女性の人に背中を叩かれた。
そう言えば、赤ん坊にミルクを与えたら背中を叩くって姉貴が言っていたな。まあ俺には無縁なことだったんだけど。
ゲプッ
俺もゲップを出させられてしまった。社会人として人前で堂々とゲップをするのは何処か気にしてしまうな。
「おー!起きたのかスター!」
「あなた、仕事から帰ってきたばかりなんだから、身体が汚れているでしょ。汚い身体でトルスターに近付かないで下さい」
「おお、そうだったな。パパとの触れ合いは少しだけ待ってくれよ!」
扉の閉める音がこの部屋に響き渡った。
あれが父親なのか……目は見えないからどんな容姿をしているか分からないが、暑苦しそうな見た目であることは確実だな。
暑苦しいと言えば、前世の親は冷静で感情を表に出すことは滅多になかったな。二人とも市役所勤務のお堅い公務員だったから仕方無いことだったかもしれないが……俺が死んだのを知って泣いてくれたのか?今となって寂しくなって来たな。感情が抑えきれない。
「今度はどうしたの」
泣いてしまった。それも赤ん坊では有り得ない悲しい感情から来る涙だ。このままでは心配させてしまうから泣き止まなければ……赤ん坊に精神が引っ張られて感情を抑え切れない。
「スターはどうして泣いているんだ?」
「それが分からないんですよ。おしめも大丈夫だし、ミルクも上げたばかりだから、揺らしてあげてるんですけど、全然泣き止まなくて」
「じゃあ俺が面白いものを見せてやろう。【光の灯火よ我が指先に集まれ】
父親(仮)の指先が朧気ながらも光っているように見えた。
その前の詠唱と思わしきものから推測するに、この世界には魔法があるみたいだ。
魔法があるのなら、
◇あとがき◇
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転生したら英雄になれるのだろうか Umi @uminarou
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