第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん⑬

 翌朝。起きると少しダルい。


「耐性が付いたのか?シンドいけど前ほどじゃない。」


 前回から時間が経たないうちに再度核を取り込んで、抗体みたいなものが出来たのだろうか。覚悟していたツラさを感じない。とは言え、この前のようにいつ体調が悪くなるとも限らないので一日大人しくしていた。阿部さんにも連絡を入れて大丈夫の旨を伝えておく。


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 翌日。体調もすっかり元通りになった。スライムダンジョンはビッグスライムがまだいない可能性があるので、今日はゴブリンダンジョンに行くことにする。


 しばらく【溶解の沼】に通っていたので【強欲の炭鉱】は久しぶりだ。


 入口で受け付けを済ませて、一階層へと降りていった。前回は二階層まで行ったが、今回はどこまで進めるだろうか。


 ショートソードと木の盾を装備して歩いていると、間もなくゴブリンが出てきた。襲い掛かってきたゴブリンに、


「ポイズン!」


 そう唱えて俺はゴブリンに毒の霧を飛ばした。毒の霧を浴びて倒れるかと思いきや、ゴブリンはものともせず棍棒を振りかぶってきた。


「効いていないのか?」


 棍棒を避けてゴブリンから距離を取る。棍棒を振り回すゴブリンの攻撃を避けながらどうしたものかと考えていると、


「グギャ?」


 ゴブリンに異変が現れた。毒はジワジワ効いてくるタイプだった。攻撃のスピードが段々遅くなってきてヨロヨロしたかと思うと口から泡を出しそのままパタッと倒れてしまった。


「うーん。効くには効くが、遅効性っぽい。」


 ド派手な攻撃魔法が欲しいが贅沢は言ってられないな。実際、こうやって効くわけだし。多少心もとないが、回復魔法と合わせて戦えば、そう難しいことはないような気がしてきた。


 俺は気を取り直して、どんどん奥へと進んで行った。


 二階層、三階層、四階層と進んで行き、難なく五階層へと足を踏み入れることが出来た。やはり手札が増えたのが大きいのだろう。全然進むスピードが違う。


 順調に進んでいた俺だったが、五匹が俺を囲んで一斉に襲い掛かってきた時が一番危うかった。


「ポイズン!」


 毒の霧をゴブリンに掛けたものの、掛かったゴブリンは眼の前にいる二匹だけ。全員に掛けることが出来ず焦った俺だったが、ショートソードに毒を纏わせることは出来ないのだろうかと一瞬考えが浮かんだ。


 剣に纏わせるイメージで、


「ポイズン!」


 と唱えると、ショートソードに毒のオーラを纏わせることが出来た。


「おぉっ!」


 俺はヒットアンドアウェイでゴブリンに一撃喰らわしては離れ、また別のゴブリンに一撃を加えては離れを繰り返し、距離を取りながら闘った。


 すると、そのうちバタバタと泡を吹いてゴブリン達が力尽きていった。


「俺の戦い方、分かったかもしれない。」


 自分の戦い方が少し分かった気がしてめちゃくちゃ喜んだのだった。


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 そのまま奥へと進み、いよいよボスであるホブゴブリンのいる場所へと到着した。


「グゲゲゲッ!」


 そこにはゴブリン十匹を従えているホブゴブリンがいた。明らかにゴブリンより一回り大きい。俺とゴブリンの中間くらいの大きさだろうか。雰囲気が明らかにゴブリンと違う。手には俺と同じようなショートソードを持っている。


 ホブゴブリンが手下のゴブリンに号令をくだし、ゴブリンが俺に襲い掛かってきた。


「ポイズン!」


 剣に毒オーラを纏わせて、ゴブリン向かっていった。新たな戦い方を手にした俺は、ヒットアンドアウェイで毒の攻撃を仕掛け、確実に一匹ずつ倒していった。


 そして俺が最後のゴブリンを倒そうと袈裟斬りに剣を振りかぶった瞬間、狙い定めていたかのようにホブゴブリンが間髪入れず背後からショートソードを横薙ぎに一閃してきた。


 俺は木の盾で防御したつもりだったのだが、剣が流れて腹にショートソードの切っ先を喰らってしまった。


「ポイズン!」


 毒の霧を出して目つぶしをしてすかさず距離を取った。切られた脇腹からは血が流れてきた。しかしアドレナリンが出ているので痛みは感じない。クソがっ。


「キュアッ。」


 そう言って回復魔法をかける。すぐに切り傷が塞がれた。回復魔法さまさまだ。


「グギャッ。」


 ホブゴブリンが嘲笑うかのように叫ぶ。お互い間合いを詰めながら、次の一手を探る。


 そして俺は時を待つ。


 するとホブゴブリンに毒がまわったのだろう、一瞬ふらりとしたのを見逃さなかった俺はひとっ飛びで距離を詰め、袈裟斬りにホブゴブリンを斬ると、そこからは連撃の手を緩めず滅多斬りにして倒したのだった。


「はあっ、はあっ。」


 どうにかこうにかボスを倒すことが出来た俺だったが、回復魔法と毒攻撃と言う手札なしには倒すことが出来なかっただろう。危ないところだった。


 死んだゴブリン達の核を全て集めた俺は、ダンジョン出口に向かって元来た道を戻っていった。


 門番にダンジョンボスを倒したことを報告するとビックリしていた。こんな短期間でソロで倒せるとは思っていなかったのだろう。しかもおじさんが。俺もそう思い、ここまで頑張れた自分に鼻が高いよ。


 スクーターに乗って俺はギルドに戻り、ダンジョン攻略の報告をした。


「強欲の炭鉱ダンジョンをクリアしました。」

「おめでとうございます。こんなに早くクリア出来るなんて凄いです!」


 阿部さんが我がことのように喜んでくれた。とても嬉しい。


「ありがとうございます。これも阿部さんのおかげです。」


 俺は心から阿部さんに御礼を言う。


「いえいえ、この功績は山田さんの強い意志あってのことですよ。もっと自分に自信を持ってください。」


 素直に受け取った俺は明日の予定を伝えた。


「この調子で明日スライムダンジョンを攻略します。また良い報告出来るよう頑張りますね。」

「期待してますが、くれぐれも無理なさらないでくださいね。」


 そして、今日の核を精算してもらった。ホブゴブリンになると核の値段が一気に跳ね上がっていた。さすがボスだけあって十万円だった。


 明日のビッグスライムもこの調子で頑張ろう。俺はギルドを後にした。


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 昨日の興奮冷めやらぬまま、溶解の沼ダンジョンへと向かった。


 先日まで俺がずっとここをホームのように狩り尽くしていたからか、スライムの数はそんなに戻っていない。あっという間に三階層へと辿り着いてしまった。


 そして前と同じ場所にボスのビッグスライムが現れたが、前回と比べ一回り小さかった。


「成り立てのビッグスライムは小さいな。」


 まぁ、それでもビッグスライムはビッグスライムだ。油断せずビッグスライムに向き合ったが、一度倒したことのあるモンスターと言うこともあり俺は苦も無く倒したのだった。


 入口に戻り、門番に報告する。


「良かったなぁ。頑張って倒した甲斐があったな。」


 事情を知らない門番のおじいちゃんがビッグスライム攻略を喜んでくれた。ギルドへ戻ると、


「二日続けて攻略するなんて信じられません。山田さんなら凄い冒険者になれますよ。」


 阿部さんのその言葉を聞いて、ようやく俺はこの世界で冒険者としてやっていく自信がついたのだった。


第一章 完


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O.D.A 〜オジサン・ダンジョン・アドベンチャー “おじさんが異世界に放り込まれちゃっ譚”〜 雨司 @amejisudo

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