第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん⑫
「ホント最悪。」
コトが済み、彼女が悪態をついた。
「何言ってんだ。途中からめちゃくちゃ喜んでたじゃないか。」
二人で男たち二人のところへ戻って来る。
「はぁっ、何言ってんの。ほんとオジサンって何回も何回もねちっこくてイヤ。」
「褒め言葉どうもありがとう。お礼にダンジョン出るまで連れてってやるよ。」
「ふんっ。当たり前でしょ。」
しっかりコミュニケーションを取ったからだろう、吹っ切れたのか俺にすっかり生意気な態度を取ってくる。足がガクガクして子鹿みたいだ。
賢者になった俺は三人をダンジョンの外まで連れて行ってあげることにした。こう見えて優しいのだ。
「こいつらまだ気を失ってる。ホント役に立たないんだから。」
彼女が心底イヤそうに言う。デブとガリはまだ気を失っているように見える。しかし股間にテントを張っているぞ。おいおい、気づいてたな、これは。確かにかなり声が漏れていたからな。自業自得とは言え、それを指摘したら彼女が可哀想だ。俺は優しいので黙っておいた。
「おいおい、パーティだろ。もう少し優しくしてやれよ。」
「嫌よ。こいつらはクジで決まった今回だけの即席パーティなんだから。」
話を聞くと彼女たちは冒険者養成学校の学生たちらしい。話では聞いたことがあったが養成学校の生徒に初めて出会った。なんでも一年で
学校の定期試験で、クジで決めたパーティで初級ダンジョンの攻略を言い渡され、彼女たちはスライムダンジョンに来たようだ。期限は明日まで。
前衛の二人があまりにも役に立たなさすぎて、なんとかボスのところまで来たは良いものの最後はああいう結末を迎えてしまった。
結果、ハズレの中のハズレを引いてしまった彼女が今回の一番の被害者だな。俺から見ても気の毒としか言いようがない。
「おい、起きろ。」
二人の肩を揺さぶり起こしてやる。すると、
「「うっ、ここは。」」
演技が下手すぎる。大根役者か。
「ようやく気づいたか。」
「敵はどうしたでござるか。」
とぼけた演技で聞いてくるので、それに乗ってやる。
「たまたま俺が通りかかったんで、彼女と協力して倒したんだ。」
「そうよ。ほんっとアンタたち使えないんだから。」
「そうだんったんでござるか。かたじけないでござる。」
「デュフフ、やりましたな。エリカ氏www」
「こ、こいつら。」
何もしてないくせに喜んでいる二人を見て、エリカのこめかみがピクピクしている。
「お前、エリカっていうのか。」
「オジサン、知らないであんなことしたの。ホント最低。」
「お前だって名乗らなかったじゃないか。それに俺のこともオジサンとしか言ってないしおあいこだろ。」
「オジサンはオジサンでイイのよ。」
ここでのんびりしていたらまたスライムが集まってくる。核を集めて早く帰ることにする。
「それじゃ、さっさと帰ろうぜ。ビッグスライムの核とノーマルの核はお前らが持っていけよ。俺はこれを貰う。」
そう言って俺はポイズンスライムの核を貰った。一つくらい貰っても良いだろう。
「そう。とりあえずこれで課題はクリアね。」
ビッグスライムとスライムの核を袋に入れたエリカ達と共にダンジョン出口に向かって行った。
ガリデブコンビの二人は自力で歩くのがしんどそうだったので、肩を貸してやった。エリカも内股歩きで歩きにくそうにしていたがこちらは気付かないふりをする。
途中、何度かスライムが出てきたがエリカが落ち着いて対処していた。
「ファイヤー!」
なんとエリカは炎魔法が使えたのだ。やはり攻撃魔法があると全然違うな。
「お前、魔法使えたのか。凄いな。」
そう褒めると、満更でもなさそうに、
「まぁね。私は魔法職よ。普通だったらスライムなんかで躓く筈ないのよ。」
言うだけのことはある。もし大変そうだったら手を貸そうと思っていたが杞憂だった。
多分まともなメンバーとパーティを組めれば今回のダンジョンも攻略出来たのだろう。実力自体も俺よりもあるかもしれない。今回は不運だったな。
地上に戻り、門番にボスを攻略したことをエリカが報告している。エリカが戻ってきたところで俺はデブガリをポイッとして、
「じゃあな。」
三人に別れを告げた。
「アンタなんか死んじゃえばいいんだから。べーだ。」
「世話になったでごさる。」
「デュフフwww」
散々な言われよう。そりゃそうか。
ボスの核を手に入れられなかったのはざんねだったが、ポイズンスライムの核をゲット出来たことの方が何倍も嬉しい。地味だが攻撃手段が増えたのは今後に期待出来るぞ。
ギルドに戻り、阿部さんに報告する。
「冒険者養成学校の生徒たちのパーティが先にボスと戦っていたので今日はダンジョン攻略出来ませんでした。」
「そうだったんですね。今の時期なら生徒さんたちが各地の初級ダンジョンでチャレンジしてますからね。また日をおいて頑張ってください。」
「でもポイズンスライムの核をゲットしたので、またこれを吸収します。」
「まぁ。」
阿部さんが口を開けてビックリしている。
「とても運が良いですね。こんな短期間でゲット出来るなんて…。平日なので様子は見に行けないのですが、もし大変だったら連絡してくださいね!」
阿部さんとは連絡先を交換しているのだ。
「ありがとうございます。二度目なので前よりは大丈夫だとは思いますけど、もしものときは頼られてください。」
そう言ってギルドを後にした。
食事を取った後、宿に戻りさっそくポイズンスライムの核を袋から取り出す。
少し紫色をしている。前と同じ様に手のひらに載せるとシュワシュワと身体に溶けていった。
「この前よりシンドくないと良いけど。」
俺はそう祈りながら眠りについた。
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