第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん⑪

「おいおい、マジかよ。」


 そこにはビッグスライムと五匹のスライムがいたのだが、若い女性冒険者はビッグスライムに下半身を取り込まれており、ガリガリとポッチャリが口から泡を吹いている。しかも二人の男性冒険者の方はなんだか様子がおかしい。毒を喰らったようで顔が紫色になっている。


 モンスターたちをよく見ると、青に似たうす紫色のポイズンスライムが一匹いる。こいつにやられたんだろう。それ以外はノーマルスライムでキュアスライムはいないみたいだ。


「まずはこいつからだな。」


 ポイズンスライムが厄介そうなので、こいつに狙いを定めて倒しに行く。もちろん敵のあいつらも一斉に襲いかかり、ポイズンスライムは俺に向かって毒霧を吐いた。


 ゴロゴロッ


 斜め前に前回りをしながら受け身を取り衝撃を逃がし、すかさず連撃でポイズンスライムを倒す。そして雑魚スライムを全部倒していった。


 そしてボスのビッグスライムに向き合うと、若い女性冒険者は既に全身飲み込まれていた。大人を余裕で飲み込めるほどの大きさがあるなんて、このビッグスライム、十匹程度が合体した大きさじゃない。二十匹は合体してる。


 アタリなのかハズレなのか、レアを引いたな。


「こいつはヤバい。早く倒さないとマジで死ぬぞ。」


 まるでスライムの中で溺れているようだ。


 俺はショートソードで女の子を斬らないように、棍棒で叩いてしまわないように、細心の注意を払いながら、ビッグスライムを削っていった。


 しかし削っても削ってもまたすぐ元に戻ってしまう。かなりの再生力だ。しかしそれしか方法はない。続けていくうちに再生しない部位が出てきた。俺は一心不乱に剣と棍棒を振り回し、ある程度小さくなったところで女性と核の部分を切り離し、残りをぶった斬っていった。


 ようやく全滅させたあと急いで彼女に駆け寄った。彼女を覆っていたスライムの中身は溶けて既にない。しかし、彼女が息をしていない。


 ほっぺを叩くが全然反応しない。


 俺は彼女を横たえてレザーアーマーを外すと大きな胸がポロンっと出てきた。ごほんっ。そして気道を確保する。準備が出来たので急いで人工呼吸、心マッサージを行う。


 五回ほどやったところで、


「ゴホッ、ゴホッ。」


 彼女の口から咳が出た。はぁっ、どうやら成功したらしい。息が止まって五分を越えると確率が低くなるらしいから間に合ったのだろう。生き返ったことにホッとした俺は、


「大丈夫か。」


 そう言って俺はキュアをかけてあげる。


「はぁっ、はぁっ、はあっ。」


 彼女は大きな息をていたがだんだん落ち着いてきた。ポニーテールをした美人だが気の強そうな顔をしている。息がすっかり落ち着くと、彼女は俺に向かって聞いた。


「オジサンが助けてくれたの?」

「あぁ。意思確認する必要があったんだろうが、そんな余裕なかったからな。」


 俺がそう応え少し思案したかと思うと、


「ふぅん、…ってことはオジサンが勝手に助けたってことね。私、助けてなんて言ってないもの。」


 そう言い放った。まるで余計なおせっかいをした俺が悪いかのように言うじゃないか。せっかく助けてあげたのにその態度は何だ。ムカッとした俺は、


「そうか。それならそれで良い。だがモンスターを倒したのは俺だ。倒したモンスターの核は俺が貰っていく。」


 表情には出さずただ冷たくそう言うと、


「ちょ、ちょっと待って。先に戦ってたのは私達よ。私達にも核を貰う権利があるわ。」


 意味不明なことを言ってきた。


「んなわけない。そのまま放っといたら死んでたんだぞ。倒したやつが総取りに決まってる。」

「お願い。それがないと困るの。」

「知らないね。」

「さっき言ったことは謝るから。」


 核を俺が全部持って帰ろうとすると、急に態度が変わってしおらしくなった。よっぽど核が必要みたいだ。


「いいや、そんなのはその場しのぎなのは分かってる。猫を被ってもダメだ。」

「うぇーん。」


 冷たく突き放すと彼女が泣き出してしまった。これじゃ埒が明かないので、


「ギルド法第二条第二項。」


 そう告げると、彼女はビクッとした。


 基本、冒険者同士の問題は冒険者同士で解決しなければならないのだが、不測の事態で他の冒険者に助けてもらった場合、それに応じた対価を金銭又は肉体労働等身体で支払う必要がある、と言う法律がある。それがギルド法第二条第二項。


 まさか俺がギルド法第二条第二項、通称ニャンニャン法を口にするとは思わなかったな。ギルドの初心者講習の時に教官が口を酸っぱくして教えてくれた法律だ。ギルドの目の届かないダンジョン内ではトラブルが頻発する、それを防ぐための法律なのだ。


 今回は、彼女たちは一匹もモンスターを倒しておらず、おまけに蘇生までしてあげた。彼女の言い分に無理があるのは自明だ。


 彼女は俺を見て、


「条件は?」


 と聞いてきた。敵をぶっ倒したこともあり昂ぶっている。おまけに怒りを注ぐようなことを言ったのだ。しっかりとお仕置きをする必要がある。


「分かってるんだろ。」

「最低。」

「じゃあな。」


 俺はそう言うと、スライムの核を回収しに行く。


「待って待って。お金は?ちゃんと払うから。」

「いらない。」


 双方合意しなければいけないのだ。キッパリと断ると、


「…分かったわ。」


 彼女が折れた。


「早く済ませてよね。」

「なぁに、天井の染みを数えてる間に終わるさ。」


 そう言えば男たち二人を放っておいたままだった。


「ちょっと待ってろ。あいつら見てくる。」


 ガリガリとポッチャリのバッグを漁り、解毒ポーションを飲ませると紫がかっていた顔も白く戻り、ただ気を失っている状態になっている。しっかり解毒ポーションが効いたみたいだ。


 俺は彼女のところに戻ると、腕を掴みあいつらから少し離れたところに連れて行った。


「壁に手をつけ。」


 そして俺は悪者を退治すべく自慢の如意棒で鬼退治に行ったのだった。


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