第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん⑩
「うーん。何が悪いのやら。」
魔法が使えず困った俺はスマホを取り出し、動画投稿サイトにアクセスした。そして、回復魔法の使い方と画面に打ち込んで、再生数の多い動画を見てみることにした。
「…えーと、なになに。」
内容は女性冒険者が傷を負った仲間に回復魔法をかける、というものだった。画面には女性冒険者と傷を負った男性冒険者仲間が映っており、男の冒険者の足の腿からは血がダラダラと流れている。横には既に息絶えたモンスターがいた。
要約すると、回復魔法を使うには負傷した部位に向かって念じる必要があり、何も無いところで使っても発動しないと言うものだった。
「痛いの痛いのとんでいけ〜。」
男の足の傷がみるみるうちに治っていった。セリフがちょっとアレだったが、若くて可愛い女性冒険者だからだろう再生回数のえげつないことえげつないこと。
「カワイイは正義だな。」
結局実戦で確かめないことには分からずじまいってことか。
そう思案していると不意に子どもの泣き声が聞こえた。
「えーーーん。」
辺りを見渡すと、滑り台の方で子どもたちと母親達が集まっている。どうやら子供が怪我をしたようだ。これは良い練習になるかもしれない。
「どうされたのですか?」
近付いていって母親の一人に尋ねると、
「子供が滑り台から滑ったら、勢い余ってすごい擦りむいちゃったみたいなんです。」
怪我した五歳くらいの子をみると、両方の手のひらと足の膝小僧から盛大に血が流れている。よっぽど勢いよく滑ったのだろう。
「ちょっと見せて。」
これは小さい子には痛いだろうなと、可哀想に思った俺はその子の手足に自分の手をかざし、治るように祈りながら、
「キュア。」
と唱えた。すると、手のひらからポワポワーっと目には見えない氣のようなものが出た気がするのだが、傷口がみるみるうちに治っていった。わぉ、本当に治っている。これくらいの傷だと傷口らしきものも何も残っていない。
回復魔法が成功し、自分で自分がしていることに驚いていると、
「あ、ありがとうございます。」
怪我をした子の母親がお礼を言ってきたので、
「いえいえ、たまたま通りすがっただけですのでお気になさらず。良かったね、坊や。」
と言って、俺はそそくさと公園を去ったのだった。
これで回復魔法を使えることを確認できたわけだ。明日からのダンジョン探索が捗るぞ、そう思った俺は足取りが軽くなるのだった。
公園を後にした俺は、そのまま駅前まで歩き駅チカのデパートでお土産を購入することにした。
「やっぱりお土産と言えば
何が喜ぶか分からない時は定番のお土産に限る。このカスタードがたまらないわけよ。明日、阿部さんに持って行こう。買い物も済ませた俺は、明日からまたダンジョン探索を再開するために早めに宿に戻ったのだった。
翌日の朝、ギルドにて
「先日は大変お世話になりました。こちらをどうぞ。」
俺はお土産を阿部さんに献上した。
「体調が戻って良かったです。なんだか前より若くなったような。」
「おかげさまでもうすっかり元気です。阿部さんの言う通り、身体中がパワーで漲ってます。」
他人から見ても前よりエネルギッシュになってるようだ。これは嬉しい。
「今日からダンジョンに入られるんですよね?」
と阿部さんが聞くので、
「ええ。実は回復魔法が使えるのを確認出来ましたので、今日から本格的にダンジョン攻略を始めようかと。」
「そうなんですね!おめでとうございます。でも病み上がりなんですから気をつけてくださいね。」
阿部さんに心配されながらギルドを出発し、【溶解の沼】ダンジョンへ向かった。
「あんちゃん、今日も頑張れよ。」
門番のおじいちゃんから激励を受ける。いつまでもスライムダンジョンに潜っているから、うだつのあがらない冒険者だと思われているのだろう。
「ありがとうございます。頑張ります。」
そう言って一階層へと降りていった。
前回同様、スライムを倒していく。この階層のスライムで苦戦することはもうないのだが、戦い方が変わったわけではないので今までと何も変わらない。
「もっと効率よく倒したいな。」
そう思った俺はリスクを取ることにした。盾をしまい代わりに棍棒を取り出した。
「キュアを覚えたんだから多少の傷は問題ないはず。」
そう、キュアが使えるようになった俺は攻撃に全振りしたスタイルでスライムをどんどん倒すことにしたのだ。
ショートソードで袈裟斬りにした後、棍棒で叩きつける。すると棍棒の衝撃で上手く二撃で倒すことが出来た。
「この戦い方いいじゃん!」
複数で現れて、残りのスライムが俺を攻撃しても傷を負ってもその後キュアで回復するので問題なかった。
「そう言えば俺は何回使うことが出来るんだろうか。」
回復魔法を使うと体力がごっそり減った感じがするので、使える限界があるのは身体で分かる。ゲームのマジックポイントみたいな感じじゃ無さそうだ。
このダンジョンのことはこの半月ほどで嫌というほど知り尽くしてしまったので、あっという間に三階層の奥の方までたどり着いてしまった。
「そろそろボスか。」
辺りに気を配りながらソロソロと歩いていると、
「キャーーー。」
という悲鳴が聞こえてきた。
「先にボスと戦っているパーティがいるのか?」
俺は急いで駆けつけると、
そこにはぐったりして気を失っている男性冒険者二人と、ビッグスライムに取り込まれている最中の女性冒険者がいるのを見つけた。
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