第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん⑨
「ついにゲットしました。」
阿部さんに報告する。
「え?ホントですか。ついにやりましたね!おめでとうございます。」
我がことのように喜んでくれる阿部さんを見てこっちまで嬉しくなってしまう。頑張った甲斐があったというもの。ノーマルスライムだけ精算してもらう。
「帰ったらキュアスライムの核を取り込むことにします。ちょうど明日明後日が土日で良かったですよ。二日しっかり休むことにします。」
「そうしてください。キュアスライムはまだ初級ダンジョンですから寝込むくらいで済むと思いますが、モンスターが強くなればなるほど想像を絶する苦しさだと聞きます。」
魔法薬はワクチンで、核の吸収は自ら免疫をつけにいくか、みたいな感じだろうか。苦しまないで済むなら魔法薬の方が断然良いよな。貧乏だから仕方ない。
阿部さんに別れを告げて、ギルド亭でそわそわしながら夕食を取った。これから起こるだろう未知の経験を想像して味があまり分からなかった。
帰りにコンビニでスポーツドリンクを二本ほど購入し、宿に戻る。シャワーを浴びて寝る準備が出来たので、核を袋から取り出し手のひらに乗せた。
しばらくすると、核が溶け出すように形が崩れていって手の中に沈んでいく。
「おぉっ。」
感覚で身体の中に入っていくのが分かる。これから身体に染み渡って順応していくのだろう。
疲れがマックスだったので、手のひらに核がなくなったのを確認して俺は早々に眠りについたのだった。
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翌朝の土曜日、身体がブルっとして目が覚めた。なんだか悪寒がする。寒いのか暑いのか分からないのだが、とにかくガクガク震える。
汗びっしょりになったので、とりあえず着替えてスポーツドリンクを飲み、再度布団にくるまる。これは聞いた話より結構シンドそうだ。ヒドい風邪をイメージしていたのだがもっとヒドい。症状が治まるまでひたすら寝ることにする。
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日曜日。今日も身体がダルい。昨日と体調が変わらない。スポーツドリンクも全部飲んでしまった。もっと買っておけば良かった。買いに行く元気がない。風邪と同じと甘く見たのが悪かったな。
寝ては起き、寝ては起きを繰り返しガクガク震えていると、部屋の扉がガチャッと開いた。
「山田さん、起きてますか?」
誰だろう。
顔を動かし入口を見ると、そこには阿部さんがいた。
「阿部さん?」
頭がぼおっとしていて、何が起きたのかよく分からない。
「大丈夫ですよ。寝ててください。私が面倒見ますから。」
手に買い物袋を持って、阿部さんはそう言った。その後、都度都度水を飲ませてくれたり、ご飯を食べさせてくれたり、身体を拭いてくれたり甲斐甲斐しく看病してもらった。
一冒険者にここまでしてくれるなんて、なんて素敵な女神様なんだ。こっちの世界に来て、俺は神様に二度目の感謝を捧げた。
夜になり、身体もかなり落ち着いてきた。熱はあるがしんどい感じもマシになってきた気がする。ベッドに横になっていると、
「もうだいぶ元気になりましたね。明日は仕事なので帰りますけど、もう一日は休んでいたほうが良いですからね。」
「分かりました、阿部さん。本当にありがとうございます。せっかくの休日なのに付き合わせてしまって申し訳ない。」
「そんなこと気にしなくて良いのに。でもそうですね、それなら、貸一つってことで良いですか?」
「もちろんです。阿部さんの頼みならなんだって聞きますから。」
「聞きましたからね。それではまたギルドで会いましょう。」
阿部さんはウインクして帰っていった。
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副作用が収まった翌日、月曜日。身体もスッキリしたのだが大事を取って休みにした。
外に出て街を歩くと身体が軽い。心なしか今までの身体より軽い感じがする。二十代とまでは行かないが三十代の時のような身体のキレを感じる。五歳くらい若返ったとでも言えば良いのかな。身体にはちきれんばかりのパワーがある。
「これは核を吸収した影響なんだろうな。」
よく考えたら核自体にエネルギーが内包されているわけだから、それを取り込んだということなのだろう。苦しみと引き換えに若さが手に入ったのかもしれない。弱いモンスターでこれなのだから、強いモンスターの核を吸収した日には…。想像して俺はブルッと震えた。
軽やかになった身体で散歩を続けていると途中大きな公園があった。平日の午前中にオジサンが一人ここにいるとあまりよろしくないのだが、この辺りには回復魔法を練習できそうな適当な場所が他になかったのだ。
赤ちゃんや幼稚園くらいの子供を連たお母さんたちがブランコや滑り台などの遊具で遊んでいるのを尻目に、目立たないよう公園の端の方のベンチに座る俺。不審者通報しないでね、と心の中で念じておく。怪しさ満点なので回復魔法が使えるか確認できたらさっさと帰ろう。
「キュア。」
さっそく言ってみる。だが、何も反応はなし。やっぱりただ言うだけじゃダメなんだろうか。念じてみるのが良いのか?
「キュア~。」
核を吸い込んだ手のひらに力を入れながら、低い声で呪文を唱える。怪しさしかない。何か雰囲気は感じるのだが何も起きなかった。
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