第1章 不思議の国に迷い込んだおじさん⑧

 土日しっかりと休息をとり、迎えた月曜日。


 俺はさっそく阿部さんに教えて貰った情報をもとにダンジョン攻略に挑むことにした。


【溶解の沼】ダンジョン。

 洞窟のようなダンジョンで、そこかしこに沼がある。三階層の小さなダンジョンらしい。


 ここのボスはビッグスライムで、何体ものノーマルスライムが合体してデカくなったやつが出てくる。何体合体するのかはランダムなので、結構差があるらしい。かなりデカいやつだと飲み込まれてそのまま溶かされて死ぬこともあるらしい。気をつけよう。


 それ以外は九割九分九厘ほぼノーマル属性のスライムしか出てこない。


 なので俺は魔法を使うスライムが出てくるまでひたすら狩りまくるという方針で挑むことにした。ボスは後回しだ。


 確率的に言って千匹倒すと一匹出てくる計算だから、一日百匹倒すことが出来たら十日で出てくるだろう。効率性が求められるな。


 ダンジョンの近くに受付窓口がある。どのダンジョンにも管理人がいるので、そこで冒険者証を出して、入ダン手続きを済ませた。


 初級ダンジョンは年度初めや夏休みなんかの長期休みの時にはとても混むらしいのだが、梅雨に入ろうとしているこの端境期は閑散としている。


 別に誰がいたって関係ないのだが、おじさんのソロ冒険者ってのが悪目立ちしてそうで、少し気が引けるんだよね。気にしてるのは自分だけなんだろうけど。絡まれたりしたら嫌だなぁ、なんて。


 入口に入って、五分もしないうちにさっそくスライムが出て来た。スライムクエストで見たノーマルと同じだな。


 ダンジョン産と地上産では何か違いがあるのだろうか。今度阿部さんに聞いてみよう。


 一歩踏み出し間合いを詰めて、スライムに肉薄する。


 まずは鞘からショートソードを抜きながら一撃、弐ノ型。


 シュッ。


 次いで返す刀で横薙ぎに壱ノ型。


 ザシュッ。


 四等分にしたうち核が残っている部分をトドメの一撃で薄切りにする。


 スパッ。


 核に対して身体の部位が少ないと、スライムは力尽きるのでこれで一匹退治完了。


 同じ要領で次から次へと現れるスライムを倒していった。二匹以上になると別のスライムが俺に向かってくるが、木の盾でうまいことシールドバッシュで吹き飛ばし、一匹目を倒してから同じ要領で倒す。


 そんな感じでスライム狩りを進めていった。今日は一階層のみだったが、百匹以上倒すことが出来た。


 ただ、やはり魔法を使うスライムは出てこなかった。まぁ、一日でゲット出来るとは思ってなかったけどね。タイムアップになったので今日は切り上げることにした。ギルドに戻り、


「買い取りお願いします。」


 阿部さんに査定をお願いする。


「山田さん、お疲れ様でした。どうでしたか?」


 阿部さんが心配そうに聞いてくる。


「阿部さんのアドバイス通り、今日から【溶解の沼】ダンジョンに潜ってます。今日は一階層で腕鳴らししてきましたけど順調ですよ。」

「そうですか。良かったです。でも無理しないようにしてくださいね。」

「ありがとうございます。」


 先日のランチで打ち解けてからすっかり仲良くなった気がする。隣の受付嬢も、いつもツンとしている阿部さんがオジサンとおしゃべりしているのを見て、ビックリした顔をしている。


 阿部さんに査定してもらって、ギルドを後にする。これからしばらくはスライムダンジョン籠もりだな。


 ・

 ・

 ・


 俺はそれからスライムダンジョンに籠もるという表現がぴったりなほど朝から晩になるまでスライム狩りに没頭した。


 二階層になると群れで出てくるのがデフォルトなのか、逆に効率よく倒せるようになっていったし、複数のモンスターの対処法に慣れたと思う。


 そして二週間目の金曜日、切り上げて帰ろうと地上に向かって三階層を歩いているとスライム十匹が現れた。知能があるのか知らないが俺を逃さないように囲んでいる。さすがに十匹に囲まれると圧巻だ。どこを見渡してもスライム、スライム、スライム。


 ただ、強くないなら脅威じゃない。俺は慌てることなく一匹ずつ倒していった。


 シュッ、スパッ、シュッ、スパッ。


 だが、倒しても倒してもキリがない。


「おかしいな。減ってない気がするんだけど。」


 注意深く見てみると、倒したスライムがぷるるんっと震えて元に戻ってるじゃないか。まるで回復魔法をかけられているようだ。


「この中にキュアスライムがいる!?」


 十匹相手だと核を取る余裕はなく、そのまま放置していたのが良くなかったのだろう。


 俺はよく目を凝らして見てみる。すると、十匹の中にわずかにノーマルより色の薄いスライムがいた。


「お前か!」


 ノーマルは青いのだが、こいつはなんだか水色をしている。薄暗い洞窟の中じゃ分かりにくい。でもよくよく見たら透明の触手があって少し形状が違うのが分かる。


 俺はキュアスライムに狙いを定めて、


 シュッ、スパッ。


 強さはノーマルと変わらないようだ。そしてそのまま残りのノーマルスライムを順にやっつけていった。


 「ふうっ。なんだか三十匹くらい倒したようなしんどさなんだが。」


 回復役がいると厄介なのがよく分かる戦いだった。たくさん戦ったからと言って核をたくさん得られるわけじゃないし、もっと観察眼を養わないとな。


とは言え、通い始めて早二週間。なかなか出てこないから一ヶ月は覚悟していたのだが、確率通り千匹程倒したところで当たりが出てくれた。これで次のステージに進める。


「これがキュアスライムのコアか。」


 俺はキュアスライムのコアを取り出し、残りのスライムのコアと共に保存袋に入れた。とにもかくにも非常に疲労が溜まっている。早くギルドに戻って阿部さんに報告しよう。ヘトヘトになってギルドに戻った。


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