エピローグ 始まらない冒険の続き
それからの私たちの話を、少しだけ。
魔王を倒した後、私は自分の町に帰るつもりだった。
ソティルには騎士団への所属を誘われたけど、魔王との戦いが終わってまで、あいつの部下をやるのは嫌だったから丁重に断った。
けれど、私は町には帰れなかった。
なぜなら、魔王テロスを倒してから三ヶ月後、新たに魔王を名乗る三人の魔族が、この世界に現れたのだ。
テロスとの戦いに土地の魔力を使いすぎたため、同じような戦術は取れず、強い魔法力を持つ者が代表して、三人の魔王を討伐するのが良いのではないかと、新聞各紙で囁かれるようになった。
結果、テロスを倒した〈勇者〉であるソティルに、再び白羽の矢が立ったのだけれど、
「勇者廃業とかってバカなこと言ってないで、さっさと冒険の支度をしなさい!」
「いーや! そもそも何で私がそんなことしないといけないの? もはや予言とか一切関係ないでしょ!」
「あんまりわがまま言ってると、ピラント様たちにまた怒られるわよ!」
「残念。あの二人は別荘で療養中だからしばらく戻ってこないのよ。そのうち弟か妹でも出来て、その子が旅立つから大丈夫よ」
一番厄介なピラント女王が不在の為、ソティルは余裕の表情だ。というか、何で弟妹がこの話で出てくるのか。そもそも、何年待つ気なんだ。
「バカ言ってないで、さっさと支度する!」
「やりたくないことは、やらない主義なの」
「大人ってのはね、やりたくなくてもやらないといけない時があるの! もう封印魔法もないんだから、いい加減観念しろ!」
と、私は嫌がるソティルを強引に旅に出そうとしていた。
ちなみに、私が強引にここまでソティルを引っ張りだそうとするも、自分の為である。
なぜなら、私にとってこの出来事は、降ってわいた再チャンスだからだ。
今度こそ、私自身の手で魔王たちを倒し、本物の〈勇者〉になることが出来る。
ソティルは優秀だけど、戦闘力がないのは分かっているし、私がうまく活躍することは容易いだろう。
くふふ、これで真の名声は私のもの……。
「黒い笑みが出てますよ」
側にいたラトレが若干引いた様子で私に言った。
おっと、危ない危ない。
「さー行くわよ、ソティル! 楽しい魔王討伐の旅に出発!」
「いやだ! 私の仕事は終わったの! これから悠々自適に引き籠もりライフを送るはずだったのに!」
「外にだって楽しいことはいっぱいあるから!」
「私、冒険はしない主義っていったでしょ!」
「そういうのは、一度でも冒険してから言え!」
こうして、私とソティルの言い争いは延々と繰り返された。
冒険は、まだまだ始まりそうになかった。
勇者である姫は、城に引きこもったまま魔王を倒すそうです。 はじめ遼 @omi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者である姫は、城に引きこもったまま魔王を倒すそうです。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます