夜勤戦線、今日も異常ありっ!
神稲 沙都琉
第1話
夜の施設…。
最も賑やかで、最も大変な時間帯。
大多数の利用者様は寝ていますが今が活動期とばかりに元気に動き回る利用者様も少なからずいます。
寝つけずにウロウロしているうちに目がさえて活動期となってしまう方もある程度いますね。
職員も施設にもよりますが私の働いてる施設は2人。利用者様は50人。大変です。
コレはそんな夜間帯のほぼ本当の話しです。
御飯がすむとホールは大変込み合います。居室へと帰る方や洗面所へといく方を尻目にたくさんの方がテレビの前へと押し寄せます。
ある日の夕方。いつもならばテレビの前にはたくさんの方がいるのに何故かみんな自分の部屋へと帰って行きます。6時を過ぎた頃には全員居室へと帰ってしまいました。
『こんなに静かになるのはありえん!何も起きなければいいね』
と思わずつぶやいたほどしんっと静まりかえってます。
『要観察者は?いない。体調不良も、いない。ますます、怪しい』
遅番の職員も帰った7時過ぎ。
全利用者様はベッドの中。
こんなこと、ありえないんですが?
『見回りがてらオムツ行きますか』
相方に声をかける。
『そうっすね。気味悪いもんね』
で、20分後。
『何もなかったっすね』
そう、全て異常なし。利用者様テレビをみてたのも数人で大多数が寝てました。
それから、更に時間が過ぎて…。
深夜。草木も眠る丑三つ時といいますか…そんな時間帯。
結局何もなく、この時間となりましてもう何も起きない!と思いかけた頃でした。
『うぬら、我をよくも愚弄してくれたな。許さんゾ。覚えておれ』
ゲームとかであるラスボスのような低い声が施設に響き渡りました。
それがスイッチであったかのように何処からともなくカーン、カカーンと金属音が響く。
『え?なに…』
低く、野太い男性の声がお経のようなものを唱えはじめました。
施設内にはこの声の主はいません。
詠唱のリズムは施設内に波のように広がっていきます。
合間にピッタリのタイミングでカーンカカーンと金属音。
モニターで確認しても皆寝ています。
『見回り行ってくる』
私が立ち上がりかけた頃、奥の方から低いドーンという音が!
『多分、部屋はわかるがカーテンでモニター確認できずっ!きをつけて』
相方にも緊張が走ります。
その間にも詠唱は流れ続けます。
詠唱に合わせ何人かがそれぞれのお題目を唱えはじめたりベッド柵をガシャガシャさせたりと賑やかに。
『なんなのさ、もう』
うるさい、より怖い。
心底、怖いと思った。
順番に部屋をのぞいて異常がないのを確認していく。
最後、カーテンの向こうで大岡さんがベッドを壁に当てていた。
『どうしたん?』
恐る恐る声をかけた。
『ん。うるさいんで』
『そっか。でも大岡さんが一番うるさいよ』
ごめんなあ、と笑顔でベッドに潜り込む。ベッドはかなり動いてずれてたが朝でいいや、と部屋をあとにする。
きっと、この日の夜勤帯の話しは笑い話しとして思い出すんだろうなあと頭をかきつつ収拾策を考える。
あとで分かったのは詠唱のヌシは滝山というおばあちゃん。基本、可愛い方なんだがあだ名がキツネツキという。
金属音のヌシは熊谷というおじいさん。工作が大好きな人、である。
平穏無事、何事もなく過ぎる夜勤なんてほぼない。が、いろんなドラマがあって楽しいのだ。
夜勤戦線、今日も異常ありっ! 神稲 沙都琉 @satoru-y
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