ボクのひみつ
明日和 鰊
第1話ボクのひみつ
ボクがみんなと違うことに気付いたのは、ここに来るすこし前だった
みんなと同じように笑うことも出来ず、いつもみんなの顔色をうかがってから笑っていたボクの反応のにぶさに、周りの大人たちはいつも変な顔をしていた
ボクにはみんなが考えるていることが、わからなかった
そんなことを大人たちに言えば、ボクは捨てられる
でもボクがひみつを口に出さなくても、けっきょく気味わるがられてボクは家をおいだされた
おばあちゃんに引き取られた時も、またすぐにおいだされるだろうと思っていたけど、おばあちゃんはそんなボクを抱きしめて、ムリして笑わなくていいんだよ、と言ってくれた
ボクをほんとうの家族としてうけいれてくれた
からだの弱っているおばあちゃんのために、ボクの手伝えることは何でもやった
料理を運んだり、リハビリのために一緒にさんぽをしたり、ゲームをしたりして、ボクとおばあちゃんはいつも一緒だった
おばあちゃんは映画を見るのも好きで、よく古い映画をボクと見た
ただ、ボクは映画がスキじゃなかった
画面の中で、笑ったり怒ったりするのを見ると、どうしてボクにはできないんだろうって、いつもくるしくなった
そんなボクを見ると、おばあちゃんもくるしそうな顔をする
おばあちゃんをこまらせていると思うと、ボクはもっとくるしくなった
そんな時おばあちゃんはいつも、
あんたはくるしいって気持ちをしってる、それはほかの人の気持ちをわかるためにだいじなものさ、ほかの気持ちもいつかわかるようになるよ
そう言ってボクをやさしく抱きしめてくれた
ボクがおばあちゃんと暮らすようになって三年後、おばあちゃんがしんだ
ボクはほんとうの家族じゃないからと、見送りにつれていってもらえなかった
ボクがおばあちゃんの部屋で待ってる時、おばあちゃんが土にうめられる時間がきた
ボクは部屋の中をぐるぐると歩き回りだした
わからなかった
何でボクがこんなことをしているのか
ボクのからだが液体でぬれた
顔にもふれると、そこもぬれていた
ボクは映画のことを思いだした
おばあちゃんに聞いたら、あれは悲しくてなみだを流して泣いているんだよって、教えてくれた
そうか、ボクは悲しくてなみだを流して泣いているのか
部屋のドアが開き、大人たちがボクにかけよってきた
大人たちがボクを抱きしめると、ボクの意識はなくなった
大都市の一等地に、人型ロボット製造最大手のA社は建っていた。
家庭用お手伝いロボット、介護ロボットなど、世界中の多くの国に輸出しており、業界では知らぬ者がいないくらいとても大きな会社だった。
厳重なチェックをパスして、二人の男が研究室に入ってきた。
部屋の二階部分に当たるその場所からは、ガラス越しに下の機械に囲まれた実験室が見えている。
「うわっ、本当にリアルですね」
「きみは初めてだったな」
病院の手術台のようなところに、五歳くらいの男の子の形をしたロボットが寝かされている。身体の装甲が剥がれ、いくつかの部分では配線が剥き出しになっていた。
「この介護ロボットの型番は、たしか部品に欠陥があって回収した際に、顔のデザインも変えて送り返したんですよね」
「顔がリアルすぎて気持ち悪いって不評だったから、それでもっと顔を機械によせたんだ」
このロボットの後継機の顔は、お面のようにのっぺりとしたデザインだった
「ただ、回収の本当の理由は、内部機密だがオペレーティングシステムの致命的な欠陥でね」
「初耳です」
「命令してないことをやったり、無視したり。どうもバグで自我が目覚めたロボットがあったらしくて、ロボット法に引っかかる恐れがあるから、別の理由を作って全部回収して、秘密裏にオペレーティングシステムをそっくり入れ替えたんだ。こいつはそれを逃れたんだな」
「でもなんで、そんなものが今頃?」
「元々介護ロボットだから老人ホームが中古屋で買ったらしくて、暴れてホームの警備ロボット二体を壊したという事だ、しかもアイレンズからオイルを漏らしながらな。それで欠陥品を疑い、警察から我が社に問い合わせがあったんだ」
「介護ロボットがそれじゃ、危険極まりないですね」
「だから製造元の我が社が、責任を持って完全に処分しなければならないってわけだ。もちろんバグのことは伏せたままだがね」
そう言うと、男の一人はボタンを押した。
おばあちゃん、おばあちゃん
おばあちゃんの顔が見えるよ
ボクもうすぐそこにいけるんだね
おばあちゃんに話したいことがたくさんあるんだ
ボクなみだを流したんだ、悲しいって気持ちボクにもわかったよ
おばあちゃんに会えたら、嬉しいって気持ちもわかる気がするんだ
おばあちゃんもうすぐそこにいくよ
おばあちゃんもうすぐそこに
ボクのひみつ 明日和 鰊 @riosuto32
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます