リンゴ味の罪悪

技分工藤

リンゴ味の罪悪

「秘密よ」と言って貴女がくれたものはぜんぶ甘い味がした。


 校則で禁止されているリンゴ味の飴は罪悪感と一緒に溶け始めた。かろかろ、と口の中で転がる飴玉を、噛み砕かないように大切に舐める。

 悪いことしてる、と私が言うと、貴女は甘い声でそうね、と返す。だから秘密よ、と続けた貴女の頬は林檎のようだった。

 西陽が差す教室には貴女と私だけが残っている。

 どんな味? と貴女は囁いた。着色料と同じ真紅の唇。貴女が目を閉じているから、私はそっと唇を触れさせた。割れそうな飴玉を舌で差し出す。滑らかに貴女に届いたそれが、かろ、と歯にあたる音だけが聞こえる教室だった。貴女は味わっている。そして、唇に脆い感触が返ってくる。崩れそうなほど小さくなった飴玉が、貴女の舌の先にある。小さくなった粒は私の口内に戻ってくる。この味が消えなければいいと思った。


 誰かの足音がした。


 貴女は身を離して

「秘密よ」


 もう飴玉は溶けて無くなってしまった。

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リンゴ味の罪悪 技分工藤 @givekudos003

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