白き聖女アルルの告解②
懐かしい顔ぶれが揃いました。
歓迎の晩餐会には国王陛下はいらっしゃらないけれど、王族貴族や各界有力者が集まりました。豪華なものです。
勇者様は可愛いメイドたちに色気を振りまいていて、ノイマン様がでっかい舌打ちをしています。
ガルシアさんとソウエモンさんは相変わらず、らぶらぶです。
……お二人とアルルには、ちょっとした因縁があります。旅の最中、山奥の秘湯で、裸の付き合いになってしまったことがあるのです。ちょっとだけ、油断してしまったのです。
勇者様は入浴中は人を寄せつけないし、ノイマン様はそもそもお風呂に入らない。
あのとき、アルルはガルシアさんだけ気にかけていれば良いと思っていました。それで油断して、お二人とエンカウントしてしまったのです。
でも。ガルシアさんもソウエモンさんも……その後、何も言ってこない。それがアルルは、とても、怖い。
女の人を食い散らかすため、男装の麗人としてふるまうクリス様。
魔術師であるために男を装っていらっしゃる、ノイマン様。
男装にムチムチの肉体を押し込んでいるガルシアさん。
どっからどう見てもおじさまにしか見えないソウエモンさん。
対外的には男女混成チームってことにしてくれているけど……まったく、変な人たちです。
***
晩餐は何事もなく、お開きになりました。
真っ白いレースを縫い付けた特別製の僧衣にも、お肉のソースを飛ばさなかったことにホッと一息です。
王国にとって大切なお客様は、中央教会に滞在します。聖職者として、アルルがみなさまを客室にご案内しました。
あとは自室で体を清めて、お祈りをして。
ぐっすり眠るだけ。
「……それでは。おやすみなさい」
ぺこりと一礼。さっさと部屋にひっこんでしまったノイマン様。せっかくなので月明かりの王都を散歩してくるという、ガルシアさんとソウエモンさん。そして……。
「ねえ、アルル。せっかくこういうタイミングがきたんだからさ、私の部屋でもっと仲を深めない?」
この、色ボケ勇者。
「絶対嫌です、王女様でもメイドでもお好きに口説いてください」
「え、あっ」
「おやすみなさい」
アホな勇者様を振り返らずに、とっとと自室に退散します。きっと都中の乙女が勇者クリス・ハルバードの来訪を待ちわびていることでしょうから。
ぱたん、と扉を閉めると、残るは静寂のみ。
高位の司祭であるアルルの部屋は、何重もの守護がかけられているのです。
「ほんとに、ボケボケの勇者様」
真っ白い僧衣から、フリルの装飾をとりはらう。リボンに、レースに、ふんだんな装飾。
本来は質素倹約を旨とする聖職者には許されないような装いですが、アルルには特例的に許可されています。アルルはとっても可愛いので。
ひとつ、ひとつ、可愛いを脱ぎ捨てます。
銀髪がからまらないように、慎重に。
少しも凹凸のない、ぺたんこの胸板が現れて。コツコツと骨ばった、けれども貧弱な体。そうして、下半身には、とっても可愛いアルルには必要のないモノが。
「……大丈夫、アルルは可愛い、です」
体を清めて、絹のネグリジェに着替える。
ベッドにはもふもふのぬいぐるみたち。
この子たちがいないと、アルルは上手く眠れないのです。
魔王滅却の旅先で手に入れたものもあります。
みんなは全然興味がなかったみたいだけど。
もふ、とベッドに埋もれて、溜息。
「勇者様……アルルが男だって知ったら、嫌いになりますか?」
勇者様にだけはバレないようにしていました。
だって勇者様が好きなのは、可愛い可愛い女の子です。
アルルはとっても可愛いけれど……きっと、勇者様の好きな「可愛い」じゃない。
アルルの──僕の名は、アルフレッド・フランソワーズ。
小さい頃、自分の名が発音できずに「あるるれっと」と言っていたのが、いつの間にか通称になっていました。
昔から、可愛いものが大好きだった。
だから可愛いアルルでいたくて、可愛いを纏っていただけなのに。
「アルルのこと、聖女だなんて言い始めた馬鹿のせいでややこしいったら」
ああ、もう。
色ボケ女好き勇者め。
いつか刺されてしまっても、治癒のお祈りはしてあげないと、アルルは誓っているのです。ちょっとは痛がればいいのです。
だって。
こんなに可愛いアルルが女の子じゃないことにも気がつけない、間抜けな勇者様なのだから。
麗しき男装勇者のかくしごと 蛙田アメコ @Shosetu_kakuyo
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