トーヤチャンプルー
とりむね
本編
洞爺湖に怪獣が現れた。
街を徘徊して家々を破壊した後、肉塊をまき散らしながらまた湖へ戻った。
火山並みの災害だ。
政府は直ぐに対策本部を設置した。
そしてまき散らされた怪獣の肉塊の分析を行った。
その結果、成分は卵と豆腐を合わせた状態に近いことが分かった。
政府は何にでも名前を付けたがる。特に怪獣の名付けには気合が入る。
洞爺湖なので「トッシー」という意見が多かったが、誰かが冗談で「卵と豆腐かぁ。今夜の夕飯はゴーヤチャンプルーなんだよなぁ」と言うと、防衛大臣が「洞爺湖だからトーヤチャンプルーだな」と言って怪獣の名前がそれに決まった。
公式発表とともに、#トーヤチャンプルーはトレンド入りした。
後日、被害状況も明らかになった。
家屋の倒壊が多数あったものの、人的被害は痴呆老人一名が行方不明になっただけ。なお、怪獣出現との因果関係は不明だという。
さて、対策本部では怪獣の対応が二つに割れた。
「災害級の被害を及ぼす怪獣は当然駆除すべき」という意見と「生物学的に貴重な存在で保護すべき」という意見だ。
そこへ新たな報告が入った。
怪獣から「腹が減った」という音声反応を聞き取ったというのだ。
「怪獣は何を喰うのか」「人が喰われたら大変だ」「なんと知的生命体ではないか!」「知的生命体であれば対話も可能だから、目的を聞いてみるのはどうだろうか」「宇宙人なら『襲来』や『来訪』するが、怪獣は『誕生』する。そこら辺で遊んでいる子供になぜ生まれてきたのかを尋ねるようなものだ」
ところが、食事の指向が分かれば飼い慣らす事ができるかもしれないという観光庁長官の意見がなぜか採用された。
こうして、怪獣と対話を試みることになった。
ところが、その後に人語が聞かれなくなってしまったので、どこかに動物と話せる奴または意志疎通できる奴はいないかという話しになった。
「うちの娘の学校にいるらしい」と防衛大臣が言ったので、僕にお声がかかったという訳だ。
「君の存在は異能だから、この件は世間には極秘にしてほしい」
校内はおろか同級生の保護者にまで広まっている能力なのに極秘と言われても。と思ったのはさておき、実際に怪獣と対峙してみた。
大きいけどれも動く気配がない点を指摘すると「こいついは活火山みたいなもの」と役人は言った。
僕はしばらく怪獣に念を送ってみて、そこで感じた事を役人へ伝えた。
「まず、トーヤチャンプルーの名前はやめてほしいと」
「では何とお呼びすれば」
「
それを聞いた防衛大臣が「地元のアイドルから一気にアジアの至宝になった」と発言したものだから、#ラン・トーフーと#アジアの至宝がトレンド入りした。
「次に早く食べてほしいと」
「食べれるのですか?」
「基本、卵と豆腐なので。腐る前に食べてほしいそう」
知的生命体を食べる事に反発する人もいたが、トメさん(行方不明だった痴呆老人)が怪獣の体内から帰還して「
保健所の検査も見事にクリアし、食べれることが証明された。
そこで防衛大臣が怪獣で作った「トーヤチャンプルー」を食べるパフォーマンスをしたのですぐに洞爺湖の名物になった。
もちろん資源は尽きるもので、一ヶ月後に怪獣の肉が消失してこのブームも消滅した。
さて、僕の方にも秘密があって、実は怪獣とは対話していない。あの時はもう絶命していたのだろう。適当な事を言ったらみんなが信じたのだ。
秘密と言うものは、誰にも気付かれずに過ぎてしまえば、なんら問題のない事なのだ。
トーヤチャンプルー とりむね @munet
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます