赤服のスパイ

ハクセキレイ

赤服のスパイ【全一話】

 一年最後の月、十二月は師走と呼ばれることもある。

 誰もが年の瀬をひかえて何かと忙しいので、どっしり構えて読経をする師僧お坊さんまでも走り回る様子からつけられた。

 ただ別の説もあるらしく、本当のことは分からない。


 そして、師走と呼ばれる十二月に、街を走る赤い影があった。

 その正体は伝説のスパイ、コードネーム『サンタクロース』である。


 彼の任務は来るべき運命の日クリスマスに備え、ターゲット子供たち秘密欲しいものを探ること。


 ある時は、ターゲットの家族から巧みな話術で聞き出す。

 ある時は、ターゲットの会話を盗み聞きする。

 ある時は、ターゲットの部屋に侵入し、持ち物から好みを推察。

 もちろん、侵入した痕跡は残さない。


 しかし彼をつけ狙う人間もいる。

 彼の卓越したスパイ技術や、持っている道具が目的だ。

 彼の持っている技術を使えば世界を支配することなどたやすい。


 だが彼にたどり着いた人間は一人もいない。

 サンタクロースの名を知られてはいても、それ以外はほとんど分かってないのだ。

 彼は秘密を探るだけではなく、自らを秘密にする技術も持ち合わせている。

 彼の実在を疑われるほどだ。


 そんな秘密主義の彼が、自らの存在を誇示するのは一つだけ。

 25日の朝、ターゲットに枕元に置かれるプレゼントである。

 その事実だけが、彼が真に存在することを証明するのだ。


 彼はサンタクロース。

 伝説のスパイ。

 正体は誰も知らない。


 今日もまた秘密を暴きに街を走る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤服のスパイ ハクセキレイ @hakusekirei13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ