福袋

荘蒸

福袋

私の年明け一番の楽しみは色んな会社のお得な福袋を買い漁ることだ。

普段買わないものが手に入るのも中身のわからないものを開けるのもワクワクする。


中でも今年一番のあたりは近所の古着屋さんの500円福袋だ。

ワンコインで最大10着近く入っているし、元値を考えるとあまりにもお得すぎる。


今年の福袋は大当たりだ。どの服も最高に可愛いし、普段着ないテイストのものもおしゃれでこれから着る機会が増えそうだ。中でも、ダウンのアウターが気に入った。古着屋なのに本物のダウンで暖かい上にとっても軽い、その上デザインも何にでも合う。こう言う出会いがあるから、古着も福袋もやめられないのだ。


いくら格安の古着屋といっても元がいいものはそれなりの値段がする。このダウンコートだってきっと元値で言えば万は超えるだろうし、状態もいいから中古でも数千は確実にするだろう。


新年早々本当にいい買い物をした。


それからしばらくは何気に小さな幸運が続いた、テストの山が当たるとか、自販機で一本無料になったり、好きな人と席がとなりになるとか。


今年はなかなかに幸先がいいのかもしれない。私はそんなことを思っていた。



私は浮かれていつもと違う道から少し遠回りして家路についた。


「ペチャ」


嫌な音がして鞄をを見るとカラスに糞を落とされたようだ。


最近いいこと続きただったこともあり、いつもなら落ち込みまくるものの、糞が落ちたのがお気に入りのダウンコートじゃなく使い古した靴だったことも重なってほとんど気に留めなかった。


今思えばこれが始まりだったように思う。空から落ちた糞が衣服に落ちず靴だけに落ちるなんて今思えばおかしい。


翌日もいつも通りだ。今日は特に寒いのでしっかりとコートを着込んで行った。

数学の教師が突然抜き打ちテストをしてきた。その範囲はまるで勉強していなかったので、見るも無惨な結果になりだいぶ落ち込んだ。


箪笥の角に小指をぶつけて骨を折った。明日は友達とテーマパークに行く予定だったのに最悪だ。



なんだかダウンコートが買った時より重くなっている気がする。



今日もまた電話がかかってきた。最近いたずら電話が多くて非常にストレスが溜まる。電話をとっても無言で相手は何も言わない。なんだか不気味で気持ちが悪い。



この前まであんなにいいことが続いたのに、最近は良くないことばかりな気がする。


外を歩いていたら、工事現場から鉄柱が私の隣に落下してきた。私の真横に落ちてきて、あと20センチもずれていたら確実にペチャンコになっていただろう。命の危険を感じたのはこれが初めてだ。


これは本当に不運なだけだろうか?


最近ずっと誰かの視線を感じる気もする。


私は必死に何か原因を探した。


誰かに恨まれる覚えも無いし、心霊スポットに行ったりなんかもしていない。いつもと変わった行動をしているわけでもない。

なのに絶対に何かある。

そう思わずにはいられない。手当たり次第思いつくものを探し、家の中をひっくり返した。



福袋に入っていてそれ以来着ているダウンコートが購入時よりもだいぶ重たくなっている。

きっとこれしかない、確かに買った時は羽のように軽かったのに、今はずっしりと鉛のようだ。

私は意を決して、コートを切り裂いた。




そこには綿でも羽根でもなく、真っ黒な髪の毛がこれでもかと敷き詰められていた。




私は走った。コートを乱雑に紙袋に押し込み、近所の神社まで一目散に向かった。鍵と携帯だけ引っ掴み一刻も早く気味の悪い現象から解放されたい。その一心で一心不乱に走り込んだ。


神社に駆け込むと青白い顔の神主が、お祓いとダウンコートの焼却処分をしてくれた。


「もう大丈夫ですよ」青白い顔のまま私に告げる。


これでやっと解放される。これでもう嫌なことも、気味が悪いことも、命の危険に遭うこともない。今日は家に帰って今すぐにでも寝よう。本当に疲れた。やっぱりどこの誰が使ってたかわからない物も、中身が見えないものも買うべきじゃないのかもしれない。今度から福袋を買うのはやめておこう。





「ピンポーン」





私が帰宅してほっとしているとインターホンが鳴った。

「はーい」

慌てて出迎えたがそこには誰もいない。






ただ、あの日買った古着屋の福袋と全く同じ袋が玄関先には置いてあった。




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