死後のエンドロール
渡貫とゐち
なにを積む?金か人徳か、悪意か鬱憤か
――このコメントには『課金』が必要です。
「あん?」
大型アップデートがあり、全てのネット記事へのコメントに制限がかかっていた。
SNSも同じくだ。
個人同士のやり取りであるメッセージは対象外であるものの……まあ、確かに個人同士のやり取りにまでは手を出せないか。
不特定多数が見るようなSNSは、全て対象になっているらしい――課金制。
コメントが有料になっただけだが……全てではないようだ。
「あ」を使用するのに数十円、というあくどい商売ではない。
恐らくは人を傷つけるような過激なコメントは、AIが判断し、課金を求めるのだろう。
文章によって値段が変わっている……、長いから高いというわけではなく、やはり内容なのだろう。ようするに誹謗中傷コメントを出すにはお金がかかるというだけだ。
…………。
「生きてる価値ないよ、さっさと死ねばいいのに」と試しに打ってみた。
それを投稿しようとすると――このコメントには課金が必要です、とメッセージが出て……。
――220万円。
「……相場が分からないから高いかどうかが分からねえな……」
いや、高いけど。
当然、おれが払える額ではないので、投稿はしないが……というかできないが。
だが、金持ちはこの大金を払って投稿するのだろう。
結局は、金持ちが楽しめる世の中になっている。
とは言ったものの、思えば金持ちはこんな誹謗中傷コメントなんかしないのか。コメントする人間は限られる。金がないから他者を攻撃して、自分以上の不幸を見て安心しているとでも言うのか……、だからコメントを残すのは、大半が貧乏人であり、金持ちではない。
だって余裕があるなら他者を貶めて自分の幸福をありがたく思うのではなく、単純に自分に楽しいことを与えて幸福を手に入れる方が簡単で健全だ。
ゆえに、他者を貶める必要が、まったくない――。
貧乏人のコメントを制限するだけのアップデートになっているが、これで誹謗中傷が減るなら……まあ、良かったのか……?
だけど、それはそれでリスクもある。
「誰もなにも言わないとなれば、暴走した時の歯止めがないんだよな……」
悪いことを悪いと言ってくれる人がいる、というのは想像よりもありがたいのだ。アドバイスや責めるような言葉は有料になりかねないし、有料なら伝えなくていいや、ともなりやすい……すると、声が届かなくなる。
そのせいで当たり障りのない言葉ばかりが乱立する記事コメントばかり。過激なものがなければ、誰もが安心して読めるものばかりで埋められて……。
どの記事を見てもコメントは似たり寄ったりで個性もない。コメント群をそのまま別の記事のコメントに差し替えても違和感はないような気がする……。
こうなってくるとコメント欄なんているのか? って感じだ。
イエスマンだらけ、ではないけど…………少なくとも反論はない。
疑問があるだけで……それも他のユーザーに攻撃されているけど。
攻撃というか、嗜められている?
「……ん? ああ、こっちに移動していたのか……。過激なコメントをしたい人はアップデート対象外の専門サイトで発言できると……こっちはかなり人がいるな――」
コメント欄を見てみれば、目を覆いたくなるような誹謗中傷の数々。記事の当人が見ることがない隠れたサイトだ。ようは当人の目に触れない陰口サイトだけれど、目の前で言うよりはまあ、いいのではないか?
陰口、誹謗中傷なんて見えないところでならいくらでも言われているわけで……自分が知らないから「自分は言われてない」って考えるのは、お花畑どころか頭の中が空っぽだ。
陰口がない? そんなわけないだろう。
人は生きているだけで他人に不満を与え、他人から文句を言われ、集団に陰口を言われているのだ。長く生きれば生きるほど、過激コメントも増えていく。
もしかしたら死後、エンドロールのように過激なコメントが下から上へと流れていっているのかもしれない……。最後に、それを見せられるのだろうか。
長生きで、多くの人を困らせてきた迷惑な人はもしかしたら……、
そのエンドロールを見るだけで、さらに数年はかかっているのかもしれなかった。
いつ天国にいけるの? なんて文句を言いながら。
――いやお前は地獄だ、なんて神様や天使は思っていそうだけど。
知らないところで他人に心無い言葉をぶつけられている。
それってどっちが先なのだろうと思えば、もう分からない……なので、もう止まれない。
言われているなら言ってもいいよね? ――というわけで。
溜まっていた鬱憤を晴らすために、サイトに書き込む。
過激が度を越えた誹謗中傷コメントを! ……これ、考えるのも結構大変なんだぜ?
誤字脱字はできない。
推敲は入念に、だ。
だって――――過激なコメントの中身で誤字脱字は、これ以上ないくらいにダサいじゃん?
…了
死後のエンドロール 渡貫とゐち @josho
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