■■■ルート 有り得たはずの幸せ、ましろこう

 昔から、おかしな夢を見る。夢の中のみんなは私の知っているみんなとそっくりで、同じようなことをしていて、でも少しだけ何かが違う。夢の中のはすごくて、賢くて、私の知らないことを知っている。


 そんな夢の話をしたら、お母さんは不思議そうに笑って、光ちゃんには不思議な力があって、他の世界が見えているのかもしれないわねと言っていた。お母さんも色々考えてくれたけど、そう考えるのが一番無難だから、きっとそうなのだろうと言っていた。


 小さい頃はよくわからなくてお母さんがそう言っていたからそうなんだと思った。賢くてすごい他のが、ダメダメな私に何かを教えてくれていっるんじゃないかって、考えていた。私にはわからない事を考えていて、私よりもすごい。そんなが考えていることはきっと難しいことで、すごいことで、正しいことなんだ。そう信じていて、その真似をしていた。そうすればのまねをしていれば、お父さんとお母さんはいつもうれしそうだったから。お隣のひろくんのお母さんも、偉いねって褒めてくれたから。のまねをしていれば、きっと何もかもがうまくいく。何もかもがいい方向に向かっていく。……そんなふうに、信じていたのだ。小さい頃は。


 成長していくに従って、の行いは無条件に褒められるようなものではないのだと知った。というものは、私が思っていたほど善良な存在ではないのだと知った。いや、善良なものじゃないなんてものじゃない。同じ私だと思いたくないほど、邪悪なものだった。


 意味のわからないものを行動指針にしていて、わけのわからないことばかりしていて、周囲のことなんてなんとも思っていない人だった。そのクセ外面だけは誰よりも良くて、周囲に愛されている人だった。私に対してもそんな姿だけ見せてくれればよかったのに、が飾っているのは外面だけで、内心はこの上なく自由だった。私が見ていることも、きっと気がついてはいはいのだろう。




 夢の中で、何度もの世界を知った。にできて私にできないことは少しづつ少なくなったし、の真似をしているうちに木工細工まで得意になってしまった。上手に作れた作品は夏休みの自由工作で賞をとり、しばらく練習を重ねた作品はお小遣いになった。


 効率のいい学習法を知ることで勉強だって得意になったし、話し方を真似することで友達だって沢山増えた。私の人生は間違いなく恵まれていて、イージーモードだった。それもこれも全部のおかげであり、私がのことを知れるおかげだ。


 全部、のおかげなのだ。でも、それでも、私にとってのことを知る夢は、うれしくないものだった。まるで本当の私の人生が狂わされているみたいに切なくて、何とか助けたいと思っても見ていることしかできなくて。何が悲しくて、自分の人生が台無しにされていく様を毎晩見なくてはならないのか。台無しになっているはずなのに、周囲の誰もそのことに気が付かず幸せそうにしている姿を見なくてはならないのか。


 間違っているのだと、伝えたい。あなたたちの考えている幸せは、そのがいる世界は間違っているのだと、伝えたい。がいなければ世界はもっと穏やかで、優しくて、みんなが幸せに笑えるものなのだ。ひろくんのお父さんはちゃんと休みの日には家にいるし、仲良しな二人にはもうひとり子供、ひろくんには妹がいるのだ。妹の智咲ちゃんは私のことをお姉ちゃんと慕ってくれて、灯も一緒に四人でよく遊ぶ。いつからかひろくんは私たちと一緒にいるのを恥ずかしがるようになったが、そんなのは関係ない。


 もっと、みんな幸せになれるはずなのだ。私の周りのみんなだけじゃなくて、の周囲のみんなも、幸せになれるはずだったのだ。


“変異は変異でも、がん細胞みたいだね、人類種の腫瘍だからピッタリだ!”


 本当にそうだ。がいなければ、もっと世界は健全に回るはずだった。全部、が悪いのだ。諸悪の根源だ。


“才能がありすぎるこの身が憎い”


 才能のせいなのか。私の体に、という才能があったから、の世界はこんなふうにおかしくなってしまったのか。私に才能がなければ、私が普通の子なら、誰もあんな悲しいことにならなくて済んだのか。


 そう思うと凄まじい罪悪感に襲われて、悲しくなって涙が出てくる。きっとこれはこうして見ているだけの私ではなく、人生を奪われた私はもっと苦しんでいることだろう。その悲しみが伝わってきて、さらに涙が込み上げ……に慰められながら好きって言われただけで泣き止んだ……この子ちょっとちょろすぎない?


 人生奪われてめちゃくちゃにされているのにそれでいいのかと疑問に思いながら、この子にはそれを嫌だと思えるほどの自分が存在しないのだと納得する。私が家族のおかげで当たり前のように獲得できた自我を、この子は持っていない。の内側から見える景色しか知らないこの子は、ほとんど赤ちゃんみたいなものだった。


 その事がとても歪で気持ち悪く感じて、同時にこれが自分でなくてよかったと安堵する。私は普通だから、まともだからこうやって忌避感を持てるが、こんなふうに育てたのは私の中に何もいなかったおかげだ。




 夢を見た。夢の中では、ひろくんの手袋を解いてわらっていた。ひろくんが悲しそうな顔をして、辛そうにしているのを見て喜んでいた。


 夢を見た。夢の中では、自分の貞操すらひろくんを苦しめるために使おうとしていた。の中の私が嫌がっても、そんなことには気付きもせずにわらっていた。ひろくんの純粋さを、優しさを利用して弄んでいた。


 夢を見た。夢の中では、一人の少女と話していた。少女はのことをヒカリと呼び、私もそれを受け入れていた。芸術家としてのかつての呼び方らしい。が私の中に入った異物だったのだと、その時初めて確信できた。いや、異物だったのは最初からだ。別の人間だったということを知った。あんなに異質で、異常な存在のくせに、元々は人間だったらしい。の異常性を知った時と同じくらい驚いた。


 そんなが、まるで普通の人みたいに接している彼女は一体誰なのか。少し気にならないでもないけど、この人もの同類なのだから、ろくな人じゃないことだけは確実だ。もしかしたら会う機会があるかもしれなくて、私が会うこの人も夢の中のこの人と同じように中に人がいるのかもしれない。


 気をつけないとと思いながら顔と名前を覚えて、あってもいない相手を警戒する。警戒したところで大した意味はないかもしれないが、多分しないよりはマシ。


「こんにちは、真白さん……であってるわよね?あなたが作った木工作品、自由工作のファンなの。少しお話いいかしら?」


 ないよりはマシ程度の警戒をしていたら、相手が突っ込んできた。しかもその理由は、私が夏休みの宿題に出していた自由工作のファンだとかいうふざけたもの。お金なら払うから買い取らせてほしいとか、他のものも作ってほしいとか、意味がわからなくて怪しいことばかり言う彼女のことを信用することなんてできるはずがなく断って、おかえり願う。なんだかとても悔しそうにしているけれど、の関係者、そうかもしれない人物を信用できるほど、私はに対していい印象を持っていない。


「……今の人、光ちゃんの知り合い?なんかすごい顔してたけど」


 ぐぬぬ、なんて本当に口にする人初めて見た……と何やら感動している様子のひろくんに、知らない不審者さんだから気にしなくていいと伝えて、不審者さんに対して興味津々だったひろくんの注意を私に戻す。私の大切な人には、不審者なんかよりも私のことを考えでほしい。ずっと一緒に過ごして、兄弟みたいに育って、お互いに大切に思いあっているかわいくて優しい恋人のことを考えてほしい。


 そんな思いを伝えるために腕をとり、身体を寄せる。必要以上にくっつくのはマーキングであり、所有権の主張だ。それほど多くないとはいえ、私のひろくんを憎からず思っている人物にはいくらか心当たりがある。そんな子達に対して、入る隙はもうないのだと見せつけなければいけないし、ついでに私を狙う悪い虫も諦めさせる。ひろくんは、“こいつのいい所は私だけが知っている”みたいな誤解を持たれやすいのだ。ひろくんのいい所で私が知らないところなんてないのに。……だから灯、私のふりしてひろくんにベタベタするのやめなさい。お姉ちゃんあなたをそんな子に育てた覚えは……お母さんっ!あんまりひろくんをからかわないでっ!“からかってるのはひろくんじゃなくて娘”?どっちにしてもやめてっ!


 そういうことばかりしてたら嫌いになるよ!と言うと、“本当に嫌い?”と聞かれる。もちろん、大好きなお母さんを本当に嫌いになれるわけもないし、嫌いなんて言葉は冗談でも言っちゃいけないので、“本当は大好き!”とキレ気味に言い返す。生温い目で見られて、ついでに抱きしめられた。ひろくんにも苦笑いされた。


 ちょっと思うところはあるけれど、まあいい。よくわからない怖いものはいなくなって、それ以降話しかけられても拒絶し続けたらやがて諦めてくれた。……諦めてくれたはずだ。しばらく道端で遭遇することが多かったり、やたらと親しげに話しかけてこられたりしたが、警察に相談すると大人しくなった。だから、きっと、諦めてくれたのだ。


 そうやって諦められてからしばらくして、のやろうとしていたことが失敗に終わったのだとわかった。いつもみたいに夢で見て、そのままもう二度と見ることがなくなった。の中から見た最後の景色は、鏡に映る私の歪んだ笑みだった。


「最近、寝起きがいいね。睡眠の質が良くなったの?」


 一緒に住んでいて、いつも隣で寝ているひろくんから見ても、の夢を見なくなった私は落ち着いて見えているらしい。酷い時だと夜中に飛び起きたり、冷や汗でシーツに人形ができたりしていたから、それがなくなったのはわかりやすい変化だったのだろう。実際に睡眠の質も上がった気がする。


「うん。なんか最近、調子いいんだ。この子のおかげかな?」


 ほんの僅かに膨らみかけた下腹部に手を伸ばし、まだなんの反応も示さないそこをさする。思い返してみれば、の夢を見なくなったのと、この子を授かったのはほぼ同じ時期だった。


 もしかしたら、この子が私のことを守ってくれているのかもしれない。この子のおかげで、の夢を見なくなったのかもしれない。もしそうなら、私にとってこの子は救いだ。


 だから、考えないことにした。きっと杞憂だから。がこの子に対してなにかするなんて、できるなんて、そんな可能性を考えるのは、きっとただの杞憂に過ぎないのだ。



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 細けえ解釈は任せます(╹◡╹)ifダシ


 これで完結よ(╹◡╹)

 明日か明後日くらいに新作あげると思うから興味があれば見てみてね(╹◡╹)

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一般性癖TS転生少女、真白 光は絶望的なまでにすくわれたい エテンジオール @jun61500002

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