第7話

「あらら、今宵のお客様は一見様じゃないようじゃ」


 右側のお狐さまが言った。


「今宵の店主はたいそうご立腹のようじゃ。気ぃ付けるがよい。そなた、鍵は持っとるじゃろうな?」


 左側のお狐さまが、訊いてきた。


「鍵?」


 サヨは、力なく呟いた。


「それなら、うちが没収して、ここにある!」


 怨念の塊みたいな恐ろしい声が、地面をがたがたと激しく揺らした。門番のお狐さまたちは、ひいっと悲鳴を上げ姿を消し、サヨの眼前には地獄の底まで続いているのではないかと思われる赤い鳥居と石階段が出現した。


 幼かったあの夜の出来事のすべてを思い出したサヨは、下へ、下へと歩みを進めた。最後の一段を下りきると、真っ赤な彼岸花畑に取り囲まれるようにして、白いお狐さまが地鳴りのような唸り声を上げながら前傾姿勢でサヨを睨めつけている。全身の毛を逆立たせ鋭利な刃物のような爪を地面に突き刺し、九つに別れた尾の先は血の色に染まり彼岸花と絡み合っている。


「そなた、なんで、うちの子見捨てた?」


 お狐さまの真っ赤な目から涙がつーっと、滴り落ちた。あの日、車で跳ねた白い獣が、お狐さまのお子だったのだと、ようやく分かったサヨは、


「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! 私の娘の命が危険な状態だったのです。私はどんな罰でも受けますから、どうか、娘だけは、堪忍してやってくださいっ!」


 と、泣き叫びながら訴えた。


「うちの子捨て置きながら身勝手なことぬかす。これじゃけん人間は嫌いじゃ。まあ、お代はきっちり受け取ったことじゃし、そなたの子の命は見逃しちゃろう」


 そう言いながら、お狐さまは錆びた「鍵」を咥え、何やら呪文を唱えた。


「そなたの寿命の半分、しかと受け取った。契約満了じゃ」


――刹那


 漆黒の空から墜ちてきた一条のいかずちがサヨを貫いた。


 コンコンさまもサヨもいなくなった彼岸花畑に残されたのは真っ黒に焦げた「鍵」だけだった。


                                    了

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よろず屋コンコン 喜島 塔 @sadaharu1031

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