第6話

 それからのサヨの人生は順調だった。母が身を粉にして働いてくれたおかげで、短大にまで行かせてもらい、卒業後は福祉関係の仕事に就いた。毎日が忙しく充実していた。そして、結婚し子宝にも恵まれた。平凡だけれども幸せな毎日を過ごすうちに、サヨはお狐さまへの感謝の気持ちを忘れ、あれは夢だったに違いないと思うようになっていた。


 ある日、サヨの娘が高熱を出した。サヨはすぐさま車に娘を乗せて病院へ向かった。娘がひどく苦しそうにしているので、焦りから、サヨの運転は荒っぽくなっていた。目の前に白い獣が飛び出してきたが、いつもより加速していたため避け切ることができなかった。白い獣は宙高く舞い上がり路肩へと落ちていった。サヨは、決断を迫られた。路肩にぐったりと横たわっている白い獣と助手席で蒼白な顔をしている娘……サヨは、誰かが白い獣を助けてくれることを願い、そのまま車を走らせた。


 その日を境に、サヨの身に次々と不幸な出来事が押し寄せた。娘は一命はとりとめたものの脳に後遺症が残ってしまい、夫は事業に失敗し多額の借金を残し姿を眩ました。借金返済のために寝る間も惜しんで働いたサヨは身も心もボロボロになっていた。娘を母にあずけ、サヨは夜闇の中をあてどもなく彷徨った。真っ暗な空には赤い月が不気味に顔を覗かせていた。間もなく、丑三つ時になる頃だった。サヨの歩みを阻むように赤い鳥居が現れた。鳥居の両端に鎮座しているお狐さまが手招きしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る